温泉クンの旅日記

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指定席

2006-07-29 | 雑文
  < 指定席 >

 
 旅で新幹線や特急を使うときは指定席をとることにしている。
 とくに新幹線は必ずとる。
 わずか何百円かの指定席料金を払えば、発車時間ぎりぎりまでゆっくり旅を
楽しむことができるからだ。自由席だと並ばないと座れないし、のんびり発車時
間ごろにいこうものなら何時間も荷物をもったまま立っていかねばならなくなる。



 それに喫煙車の指定席であれば、周りを気にせず煙草を吸えるのが嬉しい。
 ところがせっかく指定をとったというのに、東京とかの始発駅でない途中の駅
から乗車すると、こちらが予約した席にずうずうしく座っているひとがいて腹が立
つことが多い。


 まだ禁煙車が先頭車両だけだったころのたしか日曜日、京都で乗ったときの
ことだ。
 博多発のひかりだったので、すでに客席の半分以上が埋まった車両が目の前
を次々とすべっていく。
 わたしは指定席のある号車の後ろの入り口から乗り込んだ。京都から乗った
客を掻き分けて自分の席番号を探しながら前のほうにどんどん歩く。しまったな。
前のほうから乗ればよかった。



 すぐそばの席番号から眼で追っていく。あれだな。
 目指す席番号に視線を固定させて、よく見れば誰かが座っているではない
か。
(コンニャロメ、そこはオレ様の席だぞ)
 軽く逆上する。
 席に回りこんで、睨みつけ嗜めようとして思わずたじろぎ、のけぞった。
 紅毛碧眼で、しかも奥眼。プライドとかK-1格闘技戦でもメインイベントを張り
そうながっちりした体格の野郎が長い脚を組んでいたのだ。
(やば、外人じゃねえか。しかも強そう。しかし、いまさら引っ込みもつかん。
ええい)

 切符をFBIの身分証明書のようにをぐいっと差し出しながら、憤然と抗議し
た。
「ああ・・・と、エクスキューズミー、アイ、リザーブド、デス・シート! オーケー?」

 言い終わったとたん、あまりの情けないボギャブラリーと発音の下手さ丸出し
に赤くなってしまう。いったいなにがオーケーなのか。これでもかっては大の英語
好きで資格もいっぱい持っており、TOEICも七百点近く取ったのがたとえ大昔で
も泣くというものだ。いかん、流暢に二箇所ほど巻き舌使えばよかったか。
 凄い剣幕で言われた外人のほうがこんどはのけぞったものだ。山の手のお坊っ
ちゃまが突然、生まれて始めてバリバリの東北弁で話しかけられたように、ぽか
んと口をあけた。じわじわと言葉が英語に変換されてしみいっているようだ。
 
 気がつくと、あれほどガヤガヤしていた車内が一瞬静まっている。目を点にし
て固唾を呑んでいるようだ。隣の席のやつはわれ関せずと、タヌキ寝いりを決め
こんでいた。

「どーも、すみませーん」

 外人が席からあわててヌオーと立ち上がりながら、案外と上手な日本語でいっ
たものだから回りからクスクスと失笑がおこった。笑いをこらえてわざとらしい咳
払いでごまかしているのもいる。
 指定した席の隣、窓際に座ったタヌキなどは必死でこらえてるが、肩で笑って
いやがる。

 荷物を網棚に載せ、ようやく席に座ったが気恥ずかしい気分がぜんぜん抜け
ない。外人は別の車両に移動したようで、車内の雰囲気もいつもどおりに戻った
ようだ。
(もう、ビールでも呑んで気分をちょっと変えるか)
 いつもどおりでないわたしは、文庫本を取り出して読んでいるふりをしながら、
車内販売をひたすら待つことにした。


 指定席で失敗したのは、これで二度目だ。

 前のときは窓際の席を指定したら隣の通路がわの席にあとから、見るからに
三下やくざが座ってガバガバ酒を呑んでガーガー寝てしまった。思い切り行儀悪
く脚を組んで熟睡しているものだから、声をかけても眼を覚まさず、こちらはトイ
レにいけなかった。わたしもビールを呑んでいたものだから、東京から大阪まで
長時間の責め苦にいやはや往生したのである。それ以来、窓際の席を指定する
のは、乗ったことのない特急ぐらいである。

 外人が自分の指定した席を占拠するというような事態にまた遭遇したら、どう
すればいいのだろうか。そのために英語をやり直すのも馬鹿馬鹿しいし。
誰か犠牲者となって、スマートな対応の見本をみせてくれないものだろうか。
 それとも、日本語ベラベラの外人は胸にリボンを付けるとか額に黒丸のシール
を貼るとか一目瞭然にしてはもらえまいか。

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