山形、ラーメンセット

　　＜山形、ラーメンセット＞

　餅も麺類もすこぶる好きなわたしである。
　搗き立ての餅とラーメンをセットで食べられる店が山形に多いと聞き、矢も盾もたまらず駆けつけてしまった。
　山形県の中央部、河北町あたりに多いらしいのだが、旅のついでではちょいと遠回りになる。旅の通り道である山形市周辺の一軒を選択した。





　店に入ると、どうやらわたしが最初の客であった。



　なかなか小奇麗な店である。



　メニューをみて、珍しく悩む。お茶が運ばれてくる。
　納豆と決めてきたのだが、大根おろしも捨てがたい。どうしようか。
「すみません！　納豆餅とラーメンのセットをください」
　悩んだら、初心貫徹だ。



　他に客がいないので、それほど待たされずにラーメンセットの到着である。
　なにはともあれ、納豆餅から食す。
（ん！？　なんだなんだ、これは？）

　咥えた餅の伸びかたが、まるでピザのチーズのようである。餅は伸びればいいというものでもない。もうすこし伸びればいいのにと思ったあたりで切れるところに妙味があるのだ。
　味だが、納豆の味しか感じられない。
　餅の味がきわめて薄い・・・というより白玉のようだ。つまり餅なのに餅の味がない。
　機械で搗くのはしょうがないとしても、ひょっとして、もち米ではなくもち米粉を使っているのではないだろうか。

　餅は、もち米を杵と臼を使ってつくる搗き餅がなにをおいても一番旨い。赤湯温泉で朝食に食べた搗きたての餅の味を、いまでも忘れられない。
　餅には、あえかであるが確かに餅本来の味があるのである。

　気をとりなおして、ラーメンにとりかかる。
　こちらは上品な味のスープが、麺とよくバランスがとれていてかなり旨い。
（しかし、この上品な薄いスープでは餅に太刀打ちできないのではないか・・・）



　危惧したとおり、納豆餅を二個入れたとたん、上品なスープが納豆に制圧されてしまった。つまり、バランスがめっちゃ崩れてしまったのである。
　ラーメンセットのどれもこれもが一蓮托生、惨憺たるありさまになってしまった。
　味の薄い、というよりまったく味のない「餅のようなもの」を最後まで食べきることはできなかった。

　車を駐車した広いスペースの奥に洒落た煎餅屋があり、よく食べる「つや姫せんべい」をそこで買い求めて、口直しとばかりバリバリと食べてしまった。



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