函館山の黄昏からのォ～、めっけもん酒場（３）

　　＜函館山の黄昏からのォ～、めっけもん酒場（３）＞

（活イカもまだすこし残ってるし、そろそろ酒に変えるかな・・・）

　

　メニューをみると、純米吟醸で「函館奉行」という酒が眼に入る。北海道で酒といえばわたしは旭川の「男山」と増毛の「國稀」くらいしかしらない。へぇー函館にもあったのか、よしこいつを頼んでみるか。ついでに気分を変えてアスパラと、ボタン海老も追加する。

　

　函館奉行は、口に含むと吟醸の華やかな香りが鼻を抜けて、ジツにすっきりとして味で呑みやすい。後で知るのだが、函館には蔵がないので銘酒「白雪」で知られる小西酒造に依頼して、函館で作った酒米の「吟風」を使って造られた酒だそうだ。

　

　焼きアスパラ・・・じっくり焼くとジツにやわらかくなるので、皮を剥かずに食べられる。
（やっぱり、北海道のアスパラはメチャうまいなあ・・・」

　グリーンアスパラを美味いなと思ったのはたしか富良野で、だったか。とにかくそれまで缶詰の白いアスパラ知らなかったわたしは一偏で気にいってしまった。
　アスパラガスは暖かい日中に糖を作り、夜は呼吸して糖を消費する。北海道は夜の気温が低いので、糖の消費量が少ないから甘いアスパラガスになるという。

　

　美瑛あたりだと旬は春（4月下旬～6月中旬）だが、函館では4月上旬から5月下旬、7月下旬から9月上旬の2シーズンに渡って収獲される。
　栄養豊富な伏流水と名産品の真昆布を肥料に使った、函館産の「海の神」とブランド名を付けられたアスパラは穂先から根本までやわらかで瑞々しく、生でも甘い。茹でるも良し、焼くも良しの最高品質のアスパラだ。
　函館駅近くの大門横丁にせず、湯の川まで戻って正解だったな。二軒目に予定していた猫のバーには少し未練が残るけど。

　

　あれっ、そういえばボタン海老が遅いなあ。焼き台に載った海老をみて思いだす。もしかして忘れているんだろうか。森町といえばいかめしと噴火湾、噴火湾のボタン海老は海老の最高級品だ。

　

「ボタン海老、たいへんお待たせいたしました」
　忘れてなかった。目の前にそっと置かれた容器から、上の蓋みたいなのを取り外して驚いた。きれいに殻を脱がされた丸裸の海老がピチピチと跳ねている。あれぇー、ご無体はおやめくださいませ、と帯をくるくる外された二匹のお嬢さま海老の、事ここに至っても隙あらば悪奉行の毒牙から逃げだそうという態。
　隣のカップルもお喋りをやめ、唖然として見つめている。

　
　
「お、踊り食いかよ！」
　まいったな。海老踊りといえば「のれそれ（穴子の稚魚）以来か。「御免、成仏せえよ」と心で呟き、思い切りパックリといった。隣のカップルからの鋭い視線が突き刺さり左の頬が熱い。「ぎゃー、い、痛ぁ―い」という悲鳴が聞こえるようで、一匹目はじっくり味わう、とはいかなかった。
　ギャラリーのカップルも続く犠牲者からは眼をそむけ本来の甘い会話に戻ったところで、二匹目のお嬢さんをではじっくりと・・・って、わしは犯罪者か。

　ボタン海老嬢達に「一件落着！」とばかり素早く引導をわたすと、気をとりなおしてさきほど気にいってしまった柳下魚（ししゃも）ちゃんを再度ご指名するのだった。
　テレ隠しじゃないが、焼き場の若い兄ちゃんに「一杯おごるけど、なにか呑む？」と媚びてことさら丁寧に断られる始末。
　この再指名したししゃもが、またことのほか舌をよろこばせ酒がすすむ進む。

　

　いつものことながら、今日もずいぶんと呑んでしまったなソロソロ・・・と、締めにおにぎりを注文した。

　

　活イカ、柳下魚（ししゃも）、グリーンアスパラ、ボタン海老、函館奉行と、今日はまんぞく満足。
　呑み過ぎた日本酒に足をとられながら、本当は近い宿まで、なぜか長時間徘徊してしまったのだった。いわゆる見当識を失ったってヤツだよ、経験あるでしょ、ねぇご同輩。

　　　注）現在、湯の川の「函館あかちょうちん」は残念ながら禁煙になってしまったようです


　　→「函館山の黄昏からのォ～、めっけもん酒場（１）」の記事はこちら
　　→「函館山の黄昏からのォ～、めっけもん酒場（２）」の記事はこちら
　　→「函館、湯の川温泉（２）」の記事はこちら
　　→「博多・天神、とびきり『鯛茶』」の記事はこちら