<山がある風景(1)>
(残念である・・・)
山が雲を纏っていて見えない。うーん、ちきしょうめ。
雄大な山がある風景が好きだ。
富士山のような独立峰も好きだが、立山連峰とかアルプスのような連峰ならもっといい。
もともとは海のほうが好きだったのだが、旅を重ねるうちに心変わりしてしまった。生まれも育ちも横浜なので、市内には山と呼べない低い丘が多く海が近いせいもあるかもしれない。
好きな風景は、ただただ観ているだけで心がじんわりとたしかに癒される。波でざわついていた湖面が鏡みたいにシーンと静まるように。
信州白馬に山が観たい一心でやってきた。
ホテルの玄関はいっぱいの季節の花で飾られていた。
熱い時期だったので、飲み物のボトルを清冽な湧水を流して冷してある。
白馬は「はくば」と読むのか「しろうま」と読むのが正しいのか、これは結構悩むひとが多い。わたしもその一人である。
「この前の連休に白馬(はくば)に行ってきたんですけどね・・・」
旅の話を切り出す矢先に、
「ふーん、白馬(しろうま)に行っていたのか」
と、スキーが趣味の先輩からすかさず返され、言葉を失ったことがある。
現在では「しろうまだけ」という山の名前と、「しろうまあさつき」と呼ばれる高山植物の名称以外は「はくば」と読むのが正式名称とされているらしい。
そして、白馬を「はくば」と呼ぶことは地元民に一般化しており、山の名も含めて「しろうま」と読む人はほとんどいないそうだ。ただし登山家はいまでも「しろうま」という。
こうなると、わたしのような旅人も堂々と胸を張って「白馬(はくば)」と言っていいようである。
飛騨山脈(北アルプス)北部、後(うしろ)立山連峰の北の代表格である白馬連峰は、日本アルプスの最北部となる。
白馬連峰の中心となる白馬岳(しろうまだけ)、それに杓子岳( しゃくしだけ)、白馬鑓ケ岳(はくばやりがたけ)の三つで白馬三山といわれる。
白馬三山のなかで一番標高が高い白馬岳(2932メートル)に咲く「大桜草」という可憐な紅紫色の花は、その昔、雪のような純白な花だったという。
「白馬岳の魔神」という昔話で、桜草の花の色が変わった謎がとける。
『昔、白馬岳のふもとに大金持ちの長者がいて、その長者にはたまきという美しい娘がいた。
たまきが年頃になると、あちこちから嫁に欲しいという声があったが長者は首を縦にふらなかった。
たまきは、ある時から一人の若者と人目を忍ぶようになっていた。その若者は、夕暮れになると
白馬岳の方からどこからともなくやって来るのだが、なぜか名も住まいも明かさなかった。
やがて狭い山里ゆえ長者の耳に入り、男と別れなければ、人をやって男を成敗すると怒った。
そして次の夕暮れ、たまきは泣きながら若者に二度と会えなくなったと告げる。
すると、急な心変わりに怒った若者は突然姿を変え、見る間に怪物に変わった。逃げるたまき
をつかまえ、その精気を吸い取ろうとした時、猟銃が火を吹いて怪物は倒れた。村の猟師が
放った鉄砲だった。
危うい所で娘を助けられた長者は、その猟師にたまきを嫁としてやることにした。
祝言の夜、突然障子が破られ、鉄砲で撃たれて死んだはずのあの怪物が巨大な姿になって現れ、
たまきを抱えて黒雲に乗ると、あっと言う間に白馬岳山頂目指して消えた。
村人は朝までたまきを探したが、怪物もたまきも見つけることは出来なかった。
夜が明けてみると、真っ白だったさくら草が真っ赤に染まっていた。
飛び散ったたまきの血で染まったのだろう・・・と言われている』
(「まんが日本昔ばなし」と「百花物語」よりの要約)
雄大な山が観られて温泉もある、しかも二食付きでお手ごろな八千五百円という価格の小奇麗なホテルである。
予想通り、この日は満員盛況であった。
― 続く ―
(残念である・・・)
山が雲を纏っていて見えない。うーん、ちきしょうめ。
雄大な山がある風景が好きだ。
富士山のような独立峰も好きだが、立山連峰とかアルプスのような連峰ならもっといい。
もともとは海のほうが好きだったのだが、旅を重ねるうちに心変わりしてしまった。生まれも育ちも横浜なので、市内には山と呼べない低い丘が多く海が近いせいもあるかもしれない。
好きな風景は、ただただ観ているだけで心がじんわりとたしかに癒される。波でざわついていた湖面が鏡みたいにシーンと静まるように。
信州白馬に山が観たい一心でやってきた。
ホテルの玄関はいっぱいの季節の花で飾られていた。
熱い時期だったので、飲み物のボトルを清冽な湧水を流して冷してある。
白馬は「はくば」と読むのか「しろうま」と読むのが正しいのか、これは結構悩むひとが多い。わたしもその一人である。
「この前の連休に白馬(はくば)に行ってきたんですけどね・・・」
旅の話を切り出す矢先に、
「ふーん、白馬(しろうま)に行っていたのか」
と、スキーが趣味の先輩からすかさず返され、言葉を失ったことがある。
現在では「しろうまだけ」という山の名前と、「しろうまあさつき」と呼ばれる高山植物の名称以外は「はくば」と読むのが正式名称とされているらしい。
そして、白馬を「はくば」と呼ぶことは地元民に一般化しており、山の名も含めて「しろうま」と読む人はほとんどいないそうだ。ただし登山家はいまでも「しろうま」という。
こうなると、わたしのような旅人も堂々と胸を張って「白馬(はくば)」と言っていいようである。
飛騨山脈(北アルプス)北部、後(うしろ)立山連峰の北の代表格である白馬連峰は、日本アルプスの最北部となる。
白馬連峰の中心となる白馬岳(しろうまだけ)、それに杓子岳( しゃくしだけ)、白馬鑓ケ岳(はくばやりがたけ)の三つで白馬三山といわれる。
白馬三山のなかで一番標高が高い白馬岳(2932メートル)に咲く「大桜草」という可憐な紅紫色の花は、その昔、雪のような純白な花だったという。
「白馬岳の魔神」という昔話で、桜草の花の色が変わった謎がとける。
『昔、白馬岳のふもとに大金持ちの長者がいて、その長者にはたまきという美しい娘がいた。
たまきが年頃になると、あちこちから嫁に欲しいという声があったが長者は首を縦にふらなかった。
たまきは、ある時から一人の若者と人目を忍ぶようになっていた。その若者は、夕暮れになると
白馬岳の方からどこからともなくやって来るのだが、なぜか名も住まいも明かさなかった。
やがて狭い山里ゆえ長者の耳に入り、男と別れなければ、人をやって男を成敗すると怒った。
そして次の夕暮れ、たまきは泣きながら若者に二度と会えなくなったと告げる。
すると、急な心変わりに怒った若者は突然姿を変え、見る間に怪物に変わった。逃げるたまき
をつかまえ、その精気を吸い取ろうとした時、猟銃が火を吹いて怪物は倒れた。村の猟師が
放った鉄砲だった。
危うい所で娘を助けられた長者は、その猟師にたまきを嫁としてやることにした。
祝言の夜、突然障子が破られ、鉄砲で撃たれて死んだはずのあの怪物が巨大な姿になって現れ、
たまきを抱えて黒雲に乗ると、あっと言う間に白馬岳山頂目指して消えた。
村人は朝までたまきを探したが、怪物もたまきも見つけることは出来なかった。
夜が明けてみると、真っ白だったさくら草が真っ赤に染まっていた。
飛び散ったたまきの血で染まったのだろう・・・と言われている』
(「まんが日本昔ばなし」と「百花物語」よりの要約)
雄大な山が観られて温泉もある、しかも二食付きでお手ごろな八千五百円という価格の小奇麗なホテルである。
予想通り、この日は満員盛況であった。
― 続く ―
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