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初スキーをした。例年より一月ほど遅れた。理由は雪不足である。海抜2000メートルまでの景観は、春か秋かと見間違うほどに地表や枯れた草木が顔を出している。懸垂氷河も雪が乗っていないのでその構造が手に取るように分かる。其の氷河も年々温暖化で小さくなっているというが、思いのほかコンパクトな印象を与える。ここ中央スイスの屋根の上から眺めるとこの国土の全方位が見渡せる。白く輝く峰から黒く凍りつく峰へと屏風が幾重にも立ちはだかる。その間には幾多の谷が其々の営みの特色を深く刻み込んでいる。
海抜3000メートル上の世界から金融の町チューリッヒへ向かうと、一転霧中に上下感を喪失するかのように無重量感の深淵に落ち込んでしまう。ナショナルバンクの一角で思いがけず霧の実態の片鱗を垣間見る。スイスの銀行の口座の秘密は夙に有名で今更繰り返すことはあるまい。直接民主性を強く残すこの民主主義のメッカでは、外国からの圧力もあり真面目に何時も議論されている問題である。そして経済的基盤を維持するためにこの政策は引き続き固辞される。此処の国の法律に直接抵触しない限りは秘密厳守である。こうして国際テロリストの資金から、公的資金の流用、脱税した資金までありとあらゆる全世界で違法な黒い金が此処に蓄えられる。そして金融商品においては此処の国では殆んど詐欺罪というものは成立しないらしい。不用意に商品を購入したものが制裁される。つまりどのような手立てであろうがいったん此処へ振り込まれた資金は、然るべき外国からの権利請求者に容易に返還されない仕組みになっている。さらに富裕層の誘致のために特別税制が引かれ積極的な集金体制が整っている。
氷河から町へと降りるとき地元の少年スキーレースチームのお母さんとゴンドラに乗り合わせた。子供たちだけのゴンドラから追放されたお母さんから、季節違いの気候やスキーチームのことなど土地情報が聞けた。さらに最近厳しくなった交通法規違反罰則の事に話が及ぶと、「其の高額な罰則金は確かにやり過ぎだが、外国の運転手を含めて余りに無配慮な運転手がいるので致し方ない。」という二律背反する意見が呉越同舟するように中立な視点からの容認が示される。此処の民主主義の議論の仕方を垣間見せる。そして最近目に付くスイスのスキー場での大人のヘルメット着用について訊ねてみる。「着用が特に積極的に勧められているわけではないが、最近増加の無配慮なスキーヤーやボーダーの起こす事故に対抗した防衛処置で着用は間違いなく増える傾向にある。」と明快な防衛意識を物語る。
貧しさゆえ、傭兵として敵同士として殺傷の経験もあるスイス人の思考方法や政策は歴史の中で培われて容易には変化しない。世界の金融のブラックホールは今後も其の暗く底知れぬ淵を開き続ける。隣国の政治資金運用のスキャンダルだけでなく、発展途上国援助からのマネーロンダリングなどの多くは受注などの其の企業の国際商業活動と表裏一体をなしている。其れへの対策は、受注における国際経済競争の中での重要なルールの一つでもある。マネーロンダリングは決して公的資金の流用の問題だけでなく、こうした脱税という公的資金の着服である事だけは肝に銘じなければ為らない。ブラックホールの場所はハッキリしているので其処への金の流れを監視する義務は外界にあり其れを怠ることは許されない。