Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

麻痺に遠のく外界

2004-12-09 | その他アルコール


エルベ川が北海へと流れ込む小さな港町である。襟巻きをして厚いコートを着て、宮殿とは名ばかりの赤レンガの公民館へと通じる小道を入って行った。この町の小さなクリスマス市が開かれている。お馴染みの屋台や遊具が、薄くそいだ木肌を引き詰めた地面に所狭しと並ぶ。サウナのようなこのアロマが此処彼処へと放射している。公民館のレストランが玄関横の半地下に付随している。既に其の時、辺りに微かに漂っていたのは、そこのシェフが勧める屋台売りのサーモンフィレグリルの煙であった。それを注文して、ポケットから財布を出して焼き上がるのを待つ。漸くしてこれを受け取って、使い捨ての皿に乗せて止まり木へと運ぶ。出来る限り冷えないうちにサーモンピンクのそれをつつき始める。正面で親父が注ぎながら飲む美味そうなアルト・ビーアを見つけて、それを注文する。「持って行くから、ゆっくり食べてよ。」と親父がわざわざビールを運んで来てくれる。この上面発酵のアルト・ビーアは、初めて飲むこの地方のブランドだ。黒ビール独特の嫌な黒飴味がなく、その薄い色の様に殆んどケェリュチュ・ビーアの感覚に近い。それだけにこのアルト・ビーアの香ばしさは格別だ。正面玄関の階段の上ではスピーカーから音楽が鳴り、中の催し物のために人が頻繁に出入りしている。暫く様子を伺っていると、人々の表情や話し声がどこか遠くへと実体感を失っていく。建物や情景は映画のシーンのような視覚連想を誘いながらも明白な像を結んでいる。言葉を交わした親父や娘も親密感をもって間近に接している。しかしだんだんと僅か数メートル先を行く人々の存在感も薄れていく。氷点下で凍える時や冷房の麻痺感覚にも似て、厚着で皮膚感覚が鈍る。他の感覚にも軽い麻痺が起こり、外界がますます遠退いていく。



参照:
市長ズミット博士の港から [ 歴史・時事 ] / 2004-12-07
北海の冬の干潟 [ アウトドーア・環境 ] / 2004-12-08
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする