Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

精神錯乱狂想の神の座

2006-10-25 | アウトドーア・環境
昨日のFAZ紙社会面から、ヒマラヤ高峰でのドーピング問題の記事を読む。本年五月に最高齢エヴェレスト登頂を果たした鎌倉の荒山孝郎隊員が酸素マスクをしてバンドをへつる大きなカラー写真が紙面を彩る。

八千メートル峰におけるドーピングは、酸素吸入だけの問題ではないらしい。酸素吸入無しに高峰を登ることは四半世紀前までは、医学的にも無謀と思われていた。しかし、ラインホルト・メスナーらの画期的な成果は、第三の極を探検の対象から、観光の対象へと変えた。これらをもってアルピニズムの後最盛期は終わりを告げたとして異論はないであろう。

そして現在でも酸素吸入装置を使った高峰登山は日常茶飯である。しかしこれは、レジャー登山の範疇で各人の判断に任されている訳であり、何よりも高峰に於ける無酸素登山は医学的にも危険なものであり、脳死状態へと向かうような行動であることをだれもが承知している。そのような理由で、八千メートル峰の完全無酸素登山は今でもエリートの領域に属するものであるだろう。

しかし、此処で述べられているのは、覚せい剤に始まる現代的な薬品リストである。そして何よりも不幸な事象で最初に挙がるのは、初の八千メートル峰アンナプルナ初登頂者のフランス隊のラシュナルエルゾークの有名な薬でふらふらになった瀕死の帰還であり、偉大なヘルマン・ブールが使ったナチの特攻隊の有名なペルヴィティンに含まれていたアンフェタミンの覚せいである。確かに後者のあの驚異的な行動は正常ではない。

当時は、軍属のこれらの薬品の使用は常識であって、ドーピングという概念すらなかったのは皮肉である。1967年のツールドフランスにおける死亡事故がドーピングスキャンダルの初めのようである。

その後七十年代になってヒマラヤ登山においても、覚せい剤からディアモックスに人気は移る。眼圧やら脳圧を下げる薬品である。それによって、高山病症状を鎮め順応を容易にする。これはデクサメタソンは副腎皮質ホルモン分泌を促し、デクシドリンという商品名のアンフェタミンを混ぜた三種カクテルがアフガニスタン攻撃の米軍パイロットに使用されたのは記憶に新しい。

最近二十年は更に選択が広がり、ヴィアグラに相当するジルデナフィルが肺の圧を下げ、酸素代謝を好転させて、赤血球誘発のホルモン剤エポなどが高所での治療医薬品として重宝している。

さてこの現象を判断する要素として、ヒマラヤの高峰への登山は一体何であるかと云う根本的な疑問が湧く。少なくとも過去においては、国家の威信を背負った事業であって、先進国は競った。個人も競争のためにドーピングを使ったとなると不正行為と云う事になる。しかし、アルピニズムを競技と呼ぶには異論が多い。現在においてもレジャーヒマラヤ登山は競技とは云えないが、それによって身体障害者やプロスポーツ家などが名声を上げて講演料や著作権料を稼ぐとすれば競争の不正に当たる。

この件について世界アルペン協会UIAAの中でも独墺太利のアルペン協会は指導的な立場を果たしている。フリークライミングの大会での検査は常識となっているようであるが、指導とヒマラヤでのドーピング検査が必要となってきている。ティロル宣言で、「固定ザイル使用の放棄」、「ドーピングのための薬品と酸素吸入の放棄」が確認されている。

エリートクライマーは、アスピリンなどの薬品と共に非常用にこれらの薬品を身に付けているという。不当競争を避けるためにも、また正常なスポーツと健康のためにドーピングは、今後厳しく検査される傾向にある。



参照:
エリート領域の蹂躙 [ テクニック ] / 2006-08-11 05
気質の継承と形式の模倣 [ アウトドーア・環境 ] / 2006-08-06
中庸な道の歴史 [ アウトドーア・環境 ] / 2006-08-05
主体を含む環境の相違 [ アウトドーア・環境 ] / 2006-04-18
慣れた無意識の運動 [ 雑感 ] / 2006-03-07
コメント (2)
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