■ アメリカで住宅の差し押さえが中止されている ■
アメリカで金融機関による住宅の差し押さえ・競売が中止されています。
<ロイターより引用>
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17706320101018
[シャーロット(米ノースカロライナ州) 15日 ロイター] 米銀行大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)(BAC.N: 株価, 企業情報, レポート)のスポークスマンは15日、住宅の差し押さえに裁判所の承認が必要な23州で、10万2000戸分の関連書類を再審査している、と述べたうえで、そのうち3万戸の競売が中止される、との見方を明らかにした。
米国では、金融機関による住宅の差し押さえ手続きに問題があるのではないかとの疑惑が浮上し、国民の反発も強まっている。バンカメは今月9日から、全米で差し押さえ物件の競売を一時停止している。
(後略)
<引用終わり>
バンカメに限らず、多くの金融機関で差し押さえ・競売が中止されています。
表面的には住宅の差し押さえから国民を守る政策の様に見える今回の事件には、実はアメリカ経済の病巣が隠されています。
■ 枯れた「金の成る木」 ■
アメリカでは既にローンの担保に入っている住宅でも、価格が上昇すれば価格上昇分だけ新たな担保が発生します。
① ローンを組んで住宅を購入
② 住宅価格が上昇
③ 住宅価格上昇分だけ新たに担保が発生
④ 新たな担保でローンを組んで消費を増大する
住宅価格が上昇している間はアメリカ人は次々にローンを組んで消費を謳歌する事が出来ました。リーマンショック前は「住宅」はアメリカ国民にとってまさに「金の成る木」でした。
しかしリーマンショックで「金の成る木」は枯れてしまいます。残ったのは債務だけでした。
■ 住宅の差し押さえが激増 ■
アメリカでも住宅ローンの返済が2ヶ月滞れば、住宅は債権者に差し押さえられます。リーマンショック後は差し押さえまでの期間が延長されていますが、失業率が高止まりしている現状では、いずれ住宅は差し押さえられて競売に掛けられます。(アメリカでは住宅を差し押さえられた住人は、その住宅を出て行けば借金からは開放されます。)
リーマンショック後はこの様に差し押さえられる住宅が激増し、中古住宅市場に大量の住宅が溢れ出しました。最近では中古住宅の在庫は、販売量の1年分を越えています。
上図は中古住宅の販売推移です。景気低迷の長期化で、中古住宅の販売量が減少している事が分かります。
① 差し押さえによって、中古住宅の在庫が増大する
② 景気低迷によって中古住宅の販売量が低迷する
③ 中古住宅が供給過剰になり価格が下落する
④ 良質で安価な中古住宅の氾濫は、新築住宅市場を圧迫する
上のグラフはアメリカの新築住宅の販売件数の推移ですが、最盛期の1/5の販売数にまで落ち込んでいます。住宅価格も30%~40%下落しています。
■ もはや差し押さえ出来ない ■
最近では住宅を差し押さえしても在庫が増えるだけなので、金融機関も差し押さえ競売を控え、債務者が住宅を売却したらその売却益でローンを返済する日本に似た方法を取っています。
しかし、中古市場がだぶついているのですから、売却は容易ではありません。結局は返済の滞りが長期化するだけの結果となるでしょう。
冒頭の記事は、「法的不備で金融機関が住宅の差し押さえを中止」していると報じられていますが、その真意が、これ以上中古住宅の在庫が増大すると市場が崩壊する危機があるので、差し押さえたくても差し押さえられないというのが現実でしょう。
■ 「危機」の病巣は拡大している ■
最近新聞ではドル安を「通貨戦争」などと報じていますが、ドル安は結果であって目的ではありません。実際ドルが安くなってもアメリカの製造業が復活するまでにはタイムラグがあります。
一方、リーマンショックの引き金となったサブプライムローン問題は、アメリカの失業率の上昇によってあらゆる所得階層の住宅ローンの焦げ付きとなって拡大し続けています。
住宅市場が崩壊すれば、FRBが大量保有するMBSも大暴落し、FRBの債務超過は確定的となりドルは大暴落するでしょう。
さらには実質政府が保有するフレディーマックやファニーメイは破綻を余儀なくされ(既に破綻していますが)、破綻処理のコストがアメリカの財政を直撃します。
グリーンスパンのバブル誘導政策でアメリカで膨らんだ「住宅バブル」の処理は、終わるどころか現在もアメリカ経済の最大の危機として存在し続けています。