
■ エジプトの英雄、ナセル ■
エジプトの初代大統領はナセルです。
私が物心付いた頃は、既にサダト大統領でしたから、ナセルは教科書でのみ知る存在でした。
<Asahi中東マガジンから引用>
http://astand.asahi.com/magazine/middleeast/editor/2010092900002.html
(前略)
ナセルは1952年にエジプトの自由将校団を率いて、王政を打倒した。56年に大統領となると、英仏が支配してたスエズ運河の国有化を宣言し、世界を驚かせた。まさにアラブの英雄だった。
スエズ運河国有化などの演説は演説集として、いまも市販されている。ナセルは演説の名手であった。時に重々しく、時に若々しく高い声で、聴衆に訴えかける。時折、「偉大なるエジプトの民衆よ」という呼びかけを入れながら、たたみかける。アラブの指導者の中でも、ナセルの演説の上手さは群を抜いていた。
新聞のナセル特集を読む。「エジプトで個人独裁のシステムをつくったのはナセルだった。そのために、40年後のいまも、独裁が続いている」と、野党の指導者が語っている。ナセルの時代が秘密警察と政治弾圧の時代であることはいまではよく知られている。
いまでも人々の間にナセルの人気は高い。いまでは政治的にも陰が薄いエジプトだが、ナセルの時代は、確かにエジプトが輝いていた時代であった。そして、ナセルが死んだとき、わずか52歳だった。現在、80歳を超える大統領が君臨するエジプトにとって、ナセル時代とは、恐れを知らぬ若い時代だったのである。(川上泰徳)
<引用終わり>
スエズ運河をイギリスとフランスから取り上げたナセルはエジプトの英雄ですが、大統領の独裁体制を作り上げたのもナセルでした。
■ ムバラク政権・親ソビエトからアメリカの傀儡へ ■
サダトの暗殺後、大統領に納まったムバラクに関しては、私は最近まで「親ソビエト」派の大統領という誤った認識を持っていました。1978年まで現在の国民民主党は「アラブ社会主義同盟」と名乗っていましたので、エジプトは反米国家だと思っていました。
事実、ソビエト崩壊まではムバラクは「親ソ」路線だったようですが、その後「親米」路線に変更し、現在は「アメリカの傀儡政権」とまで言われるようになります。
第四次中東戦争まではイスラエルと戦争していたエジプトですが、最近はすっかりイスラエルにコントロールされていたようです。
■ インフレこそが政変の引き金 ■
ニュースなどでは「ムバラク政権の30年間の独裁」と報じていますが、エジプトの独裁政権はナセル以来の伝統で、実に55年間も独裁体制が続いていました。
ナセルやサダトの時代は、イスラエルに対抗する中東の大国というイメージでしたが、キャンプデービットでイスラエルと和解した後は、アラブの裏切り者の地位に甘んじていました。観光くらいしか産業が無いエジプトを、アメリカは資金援助で懐柔したのでしょう。
若者人口が増加して失業率が増加するなど、決して豊かで無いエジプトですが、ムスリムど同胞団も穏健で、たまに過激分子が観光地でテロを敢行するくらいでした。
今回のエジプトの政変は、FacebookやTwitterがもたらしたものという専らの報道ですが、私はインフレこそがその原因だと思っています。FacebookやTwitterは、デモを組織する為のツールであって、暴動のエネルギーは生活苦がもたらしたものです。
インフレの原因を撒き散らしたのはFRB。暴動を煽ったのはFacebookやTwitterというアメリカ発のツールです。これにwikileaksが加わり、あたかもデモが自然発生した様な演出をしています。
Twitterは先のイランの国内デモでも活躍しており、アメリカの強力政治工作ツールとなっています。
■ ムバラクを見限ったオバマと、パーレビ国王を切り棄てたカーター ■
今回のエジプトの政変は、カーター政権下のイスラム革命に似ています。
イランのパーレビ国王は親米政権でしたが、国内の不満の高まりによりフランスに亡命していたホメイニ氏が帰国し、中東で初めてのイスラム革命が成功します。
アメリカはイラン大使館を占拠されるなど、イスラム革命に手を焼きますが、カーターは強硬な手段に訴える事無く、結果的にイスラム革命を後押しします。
今回のオバマも、アメリカがずっと支援し続けてきたムバラク政権から梯子を外す格好で、政変を後押ししています。
「民主党政権は民主主義を尊重する」という姿勢が、中東のイスラム化を促進してきました。
■ 政治的混迷と地域不安を増長するエジプトの政変 ■
テレビや新聞はムバラクの失脚を「民主主義の勝利」と持ち上げますが、エジプトに待ち受けるのは政治的混乱と、経済的困窮です。
人々の不安は高まり、アメリカへの不満が反イスラエルの形を取って噴出します。
エジプトはイスラエルと国境を接しています。
エジプトに支援を受けるパレスチナのハマスも、イスラエルに対して強硬姿勢を取るでしょう。
一方、ヨルダンではエジプトと同様の政変が起こる可能性があります。革命の火はサウジアラビアやイエメンに飛び火する勢いです。
■ ロスチャイルドへの嫌がらせ? ■
石油利権を牛耳るロックフフェラーにとって、中東の緊張の高まりは原油高騰に直結し、彼らの懐を潤します。
一方、第二次世界大戦でイギリスに戦費を貸す事の見返りにイスラエルを建国させてロスチャイルドにとって、エジプトやその他の中東諸国の政変は、喜ばしいものでは無いでしょう。
もっともそれとて、表面上の対立であって、世界の多極化という大きな変革への材料として使われているだけなのかも知れません。
■ 独裁は大国の干渉への防波堤 ■
マスメディアのプロパガンダにどっぷり漬かった私達は「独裁=悪」と思い込んでいます。
しかし、キューバーにしろ中国にしろ「独裁」が国を守っている一面は無視できません。
独裁者の「悪事」ばかりに注目が集まりますが、彼らが如何に国家と国民を守ってきたかという事に注目する者は少数です。
Wikileaksがリークするのは、独裁者の一面に過ぎない事に気をつけるべきです。