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テスラモータズのモデル3は買いか?・・・ベンチャー企業特有のリスク

2016-05-16 09:04:00 | 時事/金融危機
 



■ 既に40万台の予約を獲得したモデル3 ■

米テスラモーターズのモデル3の予約が40万台に達した様です。全米でのトヨタカムリの年間販売台数が43万台弱ですから、発売前からベストセラー車確定とも言えます。

1回の充電で346km以上走行可能
3万5000ドル(約375万円)

「夢の電気自動車」が400万円弱のガソリン乗用車並みの価格で買えるのですから、予約殺到は当然とも言えます。

■ 2017年後半の発売予定 ■

華々しい発表会でデビューしたモデル3ですが、実は最終的なスペックは未だ固まっておらず、納車開始の時期は2017年後半とされています。

予約は1000ドルの手付金を払い込む必要が有りますが、解約も自由に出来るので、実際の販売台数は予約台数よりも減少する事が予想されますが、それでも30万台程度は売れるのでは無いでしょうか。

■ 問題は生産力 ■

現状、年間5万台程度の販売台数であったテスラモーターズ、がいきなり大量生産が出来るのか疑問に思っている人達も沢山居ます。

しかし、テスラーは最新鋭の生産ロボットを備えた工場と、大規模な蓄電池工場をアメリカに建築中で、大量生産体制を整えつつ在る様です。リチウムイオン電池の工場はパナソニックも共同出資しています。パナソニックは車載蓄電池の分野の成長を相当期待している様です。

リチウムイオン電池をテスラモーターズ自らが生産する事でモデル3の低価格は実現する訳で、この工場が稼働するまではモデル3は儲けの少ない車種だとも言えそうです。

■ コストダウンはパソコン用の汎用電池の活用で ■

テスラモーターズの特徴は既存の技術を上手く応用して製品を作る事にあります。日産や三菱やBMWなど、実用に耐える電気自動車を開発した企業は幾つか在りますが、バッテリーは電気自動車専用の物を開発しています。

実はリチウムイオン電池は発火性の液体を使用しているので、パソコンなどで度々発火事故を起こしています。何等かの原因で電池が加熱すると発火する恐れがあるのです。

テスラモーターズのリチウムイオン電池は車載専用の物では無く、パソコン用の汎用電池を大量に使用しています。これでコストを大幅に削減し、電池の搭載量を増やす事で航続距離を伸ばしています。

ただ、発火事故を防ぐ為に電池のそれぞれのセルの温度や電流値を常に監視し、最適にコントロールするシステムを利用する事で、汎用電池を安全に車載用に転用する事に成功しています。

■ スマホ感覚の自動車 ■

自動車産業は開発から製造まで一貫して進められる垂直統合型の産業でした。今でこそ部品製造は独立した企業が担当していますが、昔は部品の一つ一つを自社で製造していました。

一方、が電気自動車製造に参入するに当たり、基礎技術の積み重ねの無いテスラモーターズは車体生産はロータスに委託しました。要は既存の車を電気自動車に改造するという手段を用いたのです。当然、コストは高くなるので、最初のモデルは大変高価なものであり、「セレブの玩具」の様な存在の車でした。

その後のモデルも既存パーツを組み合わせて作られており、パソコンやスマホの様に水平統合によって作り出された車であると言えます。

自動運転を採用したり、常に車がネットに繋がっていてソフトウェアーのアップデートが行われるなど、従来の自動車と言う概念から「iPhone」に近い存在になったとも言えます。

■ 安全性が重要課題 ■

そうは言ってもスマホと自動車では性格が全く異なる工業製品である事には注意が必要です。スマホで人を死にませんが、自動車の不良や事故で人は死にます。

電気自動車は燃料と動力以外は従来技術の集積ですから、故障率や事故率が従来の自動車よりも高くなるとは言えませんが、電気自動車特有の事故も発生しています。

テスラモーターズは汎用のリチウムイオン電池を利用している為に、後続距離を実用に耐えるまで伸ばす為には大量の電池を搭載する必要が有ります。シャーシーの床下ほぼ一面に電池が敷き詰められています。

現在の自動車は衝突事故の際にクラッシャブルゾーンと呼ばれる壊れて衝撃を吸収する部分を持っていますが、テスラの場合、車体が潰れると床に敷き詰められた電池が破損する可能性が高くなります。

当然、センサーで衝突や電池の破損を感知して電源をシャットダウンするなど安全策は取られえいますが、破損した電池の溶液が発火するという事態を完全に防げる物では在りません。ガソリン車も事故時にはガソリンタンクやエンジン周辺から発火する可能性が有るので、電気自動車が特に危険という訳では有りません。

ただ、高速走行中のモデルSが道路の落下物を跳ねあげ、それが床下の電池を破損する事で発火する様な事故が起きています。

また、スエーデンでは充電中のモデルSが突然発火、炎上する事故も起きています。

ガソリン車が安全で電気自動車が危険と言う事では有りませんが、電気自動車特有のリスクは存在します。

■ テスラの最大のリスクは経営のギャンブル性 ■

実は私はテスラモーターズの最大のリスクは経営のギャンブル性に在ると思っています。

CEOのイーロン・マスクは1971年に南アフリカで生まれますが、その後、母親の母国であるカナダに移住し、苦労をしながらもスタンフォード大学の大学院にまで進みます。

ところが大学院は2日出席しただけで辞めてしまい、ITベンチャーを企業します。その後、電子決済のPayPal社立ち上げて成功し、テスラ自動車にも出資し、後にCEOに就任しています。まさにITベンチャーの雄的な存在です。

テスラモターズは環境問題を追い風にして政府のバックアップなども有り順調に成長して来ましたが、その経営はITベンチャーに近い。先ず出資者を募り、資金が集まったら開発、製造に取り掛かります。「夢の電気自動車」というイメージ先行で株価も上昇し、経営を拡大して来ました。

ただ、従来は生産規模も小さかったので、投資の額も限定的で小回りの利く経営だっと言えますが、30万台以上の製造台数をこなすとなれば、製造業として大きなリスクも取らなければなりません。

大規模な工場の投資は大企業でもリスクを伴います。それを1車種の販売に経営の行方を委ねているのですから、「賭け」としか言いようの無い大胆な経営です。

もし仮にモデル3よりも優れた電気自動車が発売されれば予約は解約されてしまいます。仮にリチウムイオン電池の火災事故が頻発した場合も同様の事となるでしょう。

■ スマホの様に浮沈の激しい状況になるのかも知れない ■

仮に電気自動車がスマホやパソコンの様に「パーツを集めて組み立て、ソフトウェアーで制御する」物であるならば、開発スピードはどんどん加速するでしょう。そして製品の賞味期限は短縮化して行きます。

■ リチウムイオン電池の寿命 ■

もう一つ、電気自動車特有の問題は解決していません。それはリチウムイオン電池は充放電を繰り返すうちに充電容量が少なくなって行くという問題です。

ノートパソコンを長く使っていると、だんだんと電池が減るのが早くなります。スマホなど携帯端末も同様です。

ノートパソコンの電池は5年持たないと思います。パソコンなら5年でだいたい買い替えの時期ですから問題有りませんが、自動車はもう少し乗るはずです。電気自動車のバッテリーの寿命は10万キロの様です。

プリウスはバッテリーの消耗を極力減らす設計なので20万キロ程で交換の様で、その費用は17万円程度です。ハイブリット車のメリットでバッテリーの搭載量が少ないので、17万円で済むのです。

テスラは距離無制限のバッテリー保障を付けて販売していますが、これは高価格のモデルだからこそ可能なサービスでしょう。ローコストのモデル3に採用されるとは思えません。

■ 家庭で高速充電するとブレーカーが落ちる ■

電気自動車のウィークポイントの一つに充電が在ります。

専用の充電ステーションで1時間弱でフル充電に成る様ですが、ガソリンの給油に比べてると時間が掛り過ぎます。

更に、家庭で高速充電しようとすると・・・エアコンや電子レンジと一緒に使うとブレーカーが飛びます。ですから夜間にチビチビと充電する事になります。

■ エコじゃない電気自動車? ■

もし仮に世の中の車の何割かが電気自動車になった場合、夜中の電力消費量は跳ね上がるはずです。営業車や通勤で使われている車の充電が集中すると考えられるからです。

日本もアメリカもヨーロッパも「環境」を「ビジネス」にする為に、電気自動車の普及に注力しています。しかし、原発が止まっている日本で、電気自動車に充電する電力は化石燃料を燃やして発電所で作っています。

既存の火力発電所の熱から電気への変換効率は50%未満。そして送電ロスが10%弱発生します。当然、充電の効率も100%では無いので、電気自動車は充電の段階で化石燃料のエネルギーの4割程度しか使えません。

マツダのSKYACTIVエンジンの効率は38~39%と言われています。実は電気自動車の総合効率とガソリン車の総合効率は余り変わりません。化石燃料を燃やして発電する限り、電気自動車はCO2の削減に貢献しない事になります。

■ 普及が進むと魅力が薄れる電気自動車 ■

現在のテスラに人気が集まる理由は「人と違う自動車に乗る優越感」でしょう。しかし、電気自動車が普及して「実用の道具」となるに従って、その「不便さ」も世間は認識する様になります。

今、日本で電気自動車に乗っていらっしゃる方は相当な「エコ・マニア」かと思いますが、「環境に貢献している」という満足感が不便さを補っています。しかし、「実用的か」と問われたら・・・彼らとてNOと答えるでしょう。

電気自動車の技術自体はガソリン車の歴史と同程度に長い事は余り知られていませんが、その間、ガソリン車の優位が揺らがなかったのはバッテリーに革命的な進歩が起きなかったからです。

現在のリチウムイオンバッテリーの技術はほぼ完成の域に達しており、これ以上大幅に容量が増える事も、充電時間が短縮される事も望めません。次世代の実用可能な蓄電池の登場には後25年掛ると言われており、それまでは電気自動車は車の主流になる事は無いでしょう。

自動車会社は「環境基準を満たす為」に、電気自動車を販売する必要に迫られていますが、インフラを含め、本格的な電気自動車社会の到来は当分先の話となりそうです。

テスラモーターズのブームはモデル3で終わる・・・そんな気がします。(いつもの妄想ですが)