■ 今季アニメNo1はこれでは? ■
『甲鉄城のカバネリ』や『マクロスΔ』、はたまた『コンクリートレボルティオ』と言った力作が凌ぎを削る今季アニメ。
ところが意外なダークホースが隠れていました。それは『田中くんはいつもけだるげ』。
極端に「怠惰」な男子高校生の田中くんを巡る友達模様で、男子高校生の日常のダウナーバージョンの様な作品ですが、これが見始めると結構面白い。
甲斐甲斐しく田中くんの世話を焼く親友の太田くんの心の中の突っ込みを動力に話は展開しますが、怠惰を極めんとする田中くんのロジックも、それを理解しようとする太田くんの突っ込みも斜め上を行くので、このダウナーな作品に視聴者は飽きる事が有りません。
と言うか、メチャクチャ面白いんですけど・・・。これは笑いの新ジャンルかも知れません。
■ 圧倒的な空気感が支配する演出は『のんのんびより』の川面監督 ■
第一話の1分で切ってしまった作品でした。だって、男子高校生同士が絡むって・・腐女子向きの作品だと思ったから。
しかし、これが川面作品だと知ったので、これは観るしか無いと気合いを入れて第一話を見て見ました。ところがこれが完全な肩すかし。
『のんのんびより』の様な「ほんわかハイテンション」を期待していたのですが、男子高校生同士の「のぼーーーんローテンション」を見せられると50歳のオヤジとしては、どう対応して良いのやら・・・。
だけど、これがジワジワと来るんだ・・・。なんか、観終わった後に時間の流れが完全に遅くなっちゃう。動物園でナマケモノを1時間見続けた後の様な感じと言うか・・。
とにかく、ゆっくり、まったり展開する作品ですが、意外にも見ていてイライラしません。それはこの作品が「音」に満ち溢れているから。
風の音、鳥のさえずり、学校の喧噪などなど、川面監督特有の「引き伸ばされた間」は空白では無く「豊な音」に満たされています。これは『のんのんびより』でも同様の演出がされていましたが、比較的リアルな描写がされていた『のんのん』に比べ、簡略化された『田中くん』の世界の中の方が、音の効果はより引き立ちます。
音響監督は亀山俊樹という方らしいのですが、『のんのん』でも音響監督を担当されています。この人の作る音、ミニシアター系の日本映画の音に良く似ています。様はロケでバックグランドに入り込んでしまう音のリアリティーを上手にパッケージしています。
良く観察すると、この作品、「セリフ」「無音」「環境音」「音楽」が非常に巧みに組み合わされている事に気付きます。
1)学校の喧噪と校内のカット
2)画面隅から田中くんと登場
3)太田君と絡む
4)太田君のモノローグでは環境音がフェードアウト
5)そのまま無音で画面が静止
6)風景のカット挿入と環境音
7)新たな人物の登場
8)音楽で転換
だいたいこんな繰り返しでしょうか。
この中で重要な役割を果たしているのが、川面監督特有の「引き伸ばされた間」を構成する「無音」から「環境音」への変化。
さらに、今回は音楽はシャンソンなどフレンチ風で、淡いタッチの作品に良くマッチしています。
■ 2話からは女子も登場して盛り上がる ■
1話目は男子のみの回で、このまま続くと見るのがちょっと辛いなと思いましたが、2話目からは女子達も登場し、俄然盛り上がって来ます。
この女子達が個性的、かつ魅力的で一気に6話までを観てしまいました。基本的に、女子がハイテンションで田中くんと太田くんがローテンション。このギャップが又楽しい。
さらに、クラス委員長の白石さんは実は・・・・なんて意外性もあって、話はローテンションながらも盛り上がります。
いずれにしても、こんなに盛り上がりそうも無い題材を、非常にハイクオリティーな作品にしてしまう川面監督からは当分目が離せません。嫌いでは有りませんが『虹色デイズ』と比べると川面監督の非凡さが良く分かるかと・・・。
ちなみに『のんのんびより』の過去記事はこちら。
「間」の表現力・・・今期最強 『のんのんびより』
時間の魔術師・・・『のんのんびより りぴーと』の川面真也監督
聖地巡礼シリーズ・・・『のんのんびより』
ちなみに今期アニメの注目作は、冒頭に挙げた三作品の他には、
岡田麻里+水島勉の『迷家(マヨイガ)』、
岡田麻里の『キズナイーバー』、
今石洋之監督(キルラキル)の『宇宙パトロールルル子』、
少年マンガの王道的な『ビックオーダー』、
ボンズクォリティーの『僕のヒーローアカデミア』などなど・・・。