■ 多くの経済学者が認め始めた「異次元緩和=財政ファイナンス」 ■
日銀の異次元緩和を私は「ステルス財政ファイナンス」と呼んでいましたが、2%のインフレ率達成が遠のく中で、多くの経済学者やアナリスト達も、「異次元緩和は事実上の財政ファイナンスである」と発言し始めています。
中央銀行制度におぴて最大のタブーとされている「中央銀行による財政ファンナンス」ですが、リーマンショック以降、アメリカはQEと称してFRBが直接米国債を引き受けていましたし、日本にしても金融機関は購入した国債を直ぐに日銀に売却しているので、直接引き受けとたいした違いはありません。タブーが堂々と破られていたのです。
■ 何故通貨の暴落が起きないのか? ■
「財政ファイナンスを行うと通貨の信用が失われ為替市場で通貨が暴落し、国債市場で国債が投げ売れて国債金利が暴騰する」という「伝説」を異次元緩和の前までは私も信じていました。第一次世界大戦後のドイツの様になると・・。
ところが異次元緩和やQEが明らかにしたのは、ドルや円やユーロと言った国際通貨(ハードカレンシー)においては容易に通貨の信用は失われないという事実でした。
ここら辺は「中央銀行と市場との対話」という「意味不明な呪文」が有効に働いている様で、用は「中央銀行と銀行が談合」していれば、国債市場の暴落も、為替市場の暴落も有る程度は防げる事が明らかになったとも言えます。
「これから国債をどんどん買うけど、国債売ったら承知しないよ。中央銀行の当座預金に入れておけば利子が付くからね。裏切った時はどうなるか知ってるよね・・・」端的に言ってしまえば、銀行の親分である中央銀行に金融機関は単独では逆らえないのです。
「対話と言う脅し」が有効な内は、ある程度の財政ファイナンスも「リフレ政策」として市場は許容します。むしろ国債を買って中央銀行に売却すればノーリスクで金利が得られるのですからこれ程オイシイ話は有りません。さらにブタ積でも金利が得られる。
この用に中央銀行と銀行の利害が一致する場合においては、多少のタブー破りは不問にされるのが世の現実の様です。尤も、これは通貨マフィア達が認めたケースに限られる様で、ハンガリーの様な弱小国が財政ファイナンスの様な事をすれば、その国の通貨は一気に売り込まれます。(尤も、これも通貨安政策としてハンガリーの景気回復に繋がった様ですが)
■ 低金利の継続でもバブルが起こらない訳 ■
量的緩和やQEと呼ばれる「ステルス財政ファイナンス」が必要になった理由は二つあります。
1) 先進国の成長力が低下して資金をジャブジャブ供給しなければ経済が縮小してしまう
2) リーマンショックの穴埋めで資金をジャブジャブ供給しなければ世界経済が崩壊する
実は1980年代以降、先進国、特にアメリカの成長力は定価しており、FRBは意図的に金利を低く誘導してバブルを誘発して来ました。その直近のバブル崩壊がリーマンショックです。サマーズやクルーグマンも指摘している様に先進国においては最早バブルでしか経済成長を達成出来ないのです。
1)先進国は新たなインフラ投資が経済成長に繋がらない
2)少子高齢化が進むので、経済自体の活性が失われる
3)新興国の金利に引かれて資金が国外で運用される
この様に低成長に陥った経済においては「バブル」以外に投資や消費を拡大する方法が無いのですが、一方でITバブルに代表される様に、バブルが新たなイノベーションを育てる事も事実です。
ところが、リーマンショック以降、先進各国ではバブルを生み出す活力すら失われつつあります。日本が良い例ですが、日銀が量的緩和に踏み切って以降、何回かのプチバブルは起こりましたが、かつての熱狂を取り戻す事は有りませんでした。
これは「バブルの崩壊」を経験した経済の心理的な要因も無視できません。右肩上がりの成長に疑念を抱いた経済においては容易に投資は拡大せず、結果として大きなバブルは起こり難くなります。
一方で発達したグローバル金融の元では、バブルは成長力の高い新興国で発生します。先進国で潤沢に供給された資金が金利を求めて新興国投資に流れ込むからです。
この事をして「先進国ではバブルは発生していない」と考えるのは大いなる誤解で、先進国の資金で新興国がバブルぶなっているおですから、中国などの新興国で巨大なバブル崩壊が発生すれば、新興国の投資資金も棄損します。要は、グローバル金融の元では、海の向こうのバブルも自国内のバブルも大差は無いのです。
■ 異次元緩和やマイナス金利は「国債の消化プログラム」 ■
量的緩和と言う「ステルス財政ファイナンス」のトップランナーは日本ですが、日銀が年間に80兆円ずつ国債などを買い入れてマネタリーベースを増やしています。金利もとうとう20年債までがマイナスにっています。
マイナス金利まで導入しても景気はあまり刺激された様に見えませんが、実はマイナス金利は日銀の当座預金の一部にしか課せられないので、実際にはブタ積は金利収益を銀行に与え続けています。
要は、日銀の異次元緩和もマイナス金利も実際の所は景気回復を目的とするのでは無く、既に税収では支えられなくなった日本の財政をファイナンスする為の「国債の消化プログラム」に過ぎないのです。
マイナス金利も国債は国債を発行して金利が得られるという異常な状況を生み出していますが、日銀の年間80兆円規模の国債買い入れは、既に今年の財政ファイナンスを終了して、来年以降の財政をもファイナンスする規模となっています。
「金利が上昇しない内に国債を大量に発行してしまおう」という意図が透けて見えます。表向きは「プライマリーバランスの健全化」などというポーズは取っていますが、財務省も景気回復局面(金利上昇局面)までは「消費税増税とう景気の冷却材」を温存しています。
■ ヘリコプターマネーと言う新たな実験 ■
ヘリコプター・ベンこと元FRB議長のバーナンキ氏の来日で、日本における「ヘリコプターマネー」の憶測が乱れ飛んでいます。
「永久国債を発行して日銀に買い取らせれば不可能では無い」と言ったとか言わないとか・・・。
尤も、日本国債の金利がこのまま低利で安定しており、日銀は保有国債の償還時にロールオーバーを繰り返せば「永久国債」と大差は無いので、実は日本は事実上のヘリコプターマネーを実施しているとも言えます。これはFRBも同様です。
ヘリコプターマネーの表向きの目的は異次元緩和と同様にデフレ脱却ですが、異次元緩和が供給サイドから資金需要を喚起しようとする政策なのに対して、ヘリコプターマネーは直接(或いは間接的)にお金を国民に配って需要を直接盛り上げる政策です。
ヘリコプターまねーは三橋貴明氏らの主張に極めて近く、彼らは意図的に財務省や日銀の露払いの役割を担っているのだと最近の私は妄想しています。
安倍政権は20兆円の補正予算を組むと噂されていますが、財源は先行して発行した国債で賄えるはずです。自民党の事ですがら20兆円は様々な「バラマキ」の元でとして政治可の利権となっているのでしょう。
20兆円と言う金額は国民の総人口で割ると一人当たり15万円以上の金額になります。4人世帯で60万を直接支給する事の出来る金額です。まさにプチベーシックインカム。
尤も、直接国民に支給した場合、資金は預金に回ります。仮に1年の期限付きのクーポンとして支給したとしても、余った現金が預金に変わるので同じ結果となります。ただ、お金が入れば人は気が大きくなるので、経済効果は多少は出るでしょう。
一方、公共事業や補助金としてバラマく場合は、1回は経済活動に寄与して新たな雇用を生み出します。しかし、昨今は建設現場のみならず多くの職場で人手不足が顕著ですがら、アベノミクス初期に起きた様に、公共事業による人件費の上昇が民間企業の業績を悪化させる「労働市場のクラウディグアウト」が発生する事は目に見えています。
20兆円の補正予算を組むならば保育園の増設とか、保母さんの給与アップに使うべきですが・・・継続性に疑問が有ります。どうも、安倍政権の大型補正予算は政権の人気取が目当てで、憲法改正のエサにしか思えません。
■ ヘリコプターマネーの真の目的 ■
まあ、お金が貰えるおんであれば庶民には嬉しい「ヘリコプターマネー」ですが、真の目的は市場への資金供給でしょう。実はリフレ政策の目的も実際にはデフレ脱却では無く、金融市場への資金供給にあるかと私は妄想しています。
リーマンショック以降のQEや異次元緩和などのクレージーな資金供給は崩壊しかけた金融システムを支えるのみならず、新興国に大量の資金を提供することでこれらの国のインフラや経済基盤を整備する事を達成しています。
これによって世界は新たな安価な製造力と、新たな市場を手に入れています。所謂「新興国バブル」ですが、バブルが崩壊してもインフラや経済成長の成果は残り、新たな世界の成長の源になります。
この様に考えると、俄かに浮上して来た日本の「ヘリコプターマネー」ですが、その資金の少なからぬ量が金融市場に流れるとするならば・・・・世界はタブーに目をつぶるでしょう。
■ 財務省の思惑 ■
実はヘリコプターマネーに関しては金融マフィア達と財務省は「同床異夢」でしょう。
既に日銀は日本国債の1/3近くを保有しており、今後、この比率が高まるにつれて市場の需給関係がタイトになって来ます。本来ならばテーパリングを開始すべきですが、既に日本の財政は税収でどうこう出来るレベルでは有りません。
現実的には日銀がテーパリングをチラつかせるだけで日本国債市場は暴落してしまうので、事実業日銀は異次元緩和を止める事はありません。
こうなると、少なくとも2年以内に日銀が買い取る国債が市場から枯渇する訳ですが、そうなる前に日銀法を改正して、日本国債の日銀による直接買い取りに道を開くしかありません。その為の地均しが、俄かに台頭した「ヘリコプターマネー」論争なのでしょう。
これは日本に限らず、アメリカなどの先進国もいずれは同様の状況に陥るはずで、日本で実験して「ヘリコプターマネーは有効だ」と言う実績を作っておきたいのかも知れません。
■ 皆がハッピー=皆がアンハッピー ■
ヘリコプターマネーや財政ファイナンスが成功するかどうかは「政府の自制」次第でしょう。
日銀が国債を直接引き受けた場合、「円=政府通貨」となる訳ですが、手元にある1万円の印刷が変わる訳では有りません。多くの人々にとっては何ら変わらない1万円です。
政府が十分に自制的であるならば、財政と経済を支える最低限の通貨発行量を守れば「政府通貨」は財政に負担を掛けない魅力的なシステムです。今後増大する「無年金世代(現在のフリーター達)を支える為にもベーシックインカムの原資が必要ですが、最早税収でどうにかなるレベルでは合いませんから、「政府通貨化」は避けては通れない道です。
但し、安倍政権の補正予算を例に取るまでも無く、政府が打ち出の小槌を手に入れた場合、人気取の為にそれを振り回す欲求に抵抗出来なくなる事は、過去の歴史が証明しています。
財政ファイナンスやヘリコプターマネーは正しく管理されれば「皆なハッピー」な政策ですが、世の中往々にして「皆がハッピー=皆がアンハッピー」というオチになるものです。
本日は財政ファイナンスとヘリコプターマネーについて妄想してみました。