「積極財政」は可能か?との問い合わせを頂いています。素人なので大雑把な予測しか出来ませんが、「日銀は政府の子会社」という前提で、金利が政府に返納される事と、償還される国債は日銀が新たな国債にロールオーバーする事を鑑みても、3%程度の名目成長では、日本の財政悪化は止められない。むしろ、テールリスクを拡大するので、10年債の金利をゼロに固定出来る、「ゼロ成長」が今の日本には最も優しい政策だと・・私は考えます。(但し老人に優しく、若者に負担を押し付ける政策ですが・・)
■ そもそも2%の経済成長は難しい ■
昨日の「無限国債」に関する記事を読まれた方の中には、「人力さん、三橋貴明氏を批判しているのに、彼と同じ事を言っていないか?」と思われた方は多いでしょう。
多分、「日銀の間接的な国債買い入れによって、日本の財政の延命が可能」という点までは彼も私も意見は一致すると思います。
意見を違えるのは、「積極的財政出動で景気を回復すべき」という彼の主張に対してです。
公共事業の乗数が仮に1.0だとすると500兆円の名目GDPを2%成長させる公共事業の追加分は10兆円程度。安倍政権発足時に追加補正予算が9兆円程度でしたから、ほぼこれに等しい。
公共事業中心に組まれた補正予算によって何が発生したか・・・。工事現場は人手不足に陥り、民間の建築現場の人件費が上がってゼネコンは赤字現場を連発していました。これは官業による民業の圧迫なので、工事現場の人で不足に悩む日本では、大規模な公共事業の増発が不可能な事が明らかになりました。
では、育児手当とか、保育士の所得補助にばら撒いたらどうか・・・。(これ、三橋一派は批判していた民主党政権のバラマキですが)この場合、余分な資金は預金に回ってしまし、乗数効果は1.0を大きく下回ると思われます。
この様に考えると、積極財政によって短期的にも2%の景気回復を達成するのも現在の日本では至難の業なのでは無いか。
だから、日銀は安心して2%のインフレ達成まで安心して異次元緩和を継続出来る。要は、ほぼ永続的に異次元緩和を続けますと言っているに等しい。(潜在成長力がゼロ程度というのが大方に人の見方)
■ 積極財政論を斬る ■
そもそも日銀の異次元緩和の第二形態による「財政ファイナンス」のスキームで最も重視されるのは10年債の金利を0%に固定する事。10年債金利が3%に達すると日本の財政の継続性が大きく損なわれるとの意見が散見されます。
1)昨年度の歳出の中の国債の利払い費は10兆円。
2)毎年発行される国債の額は、借換債も含めると今後170兆円、200兆円・・と増加
3)現在の利払い費の重加算平均金利は2%弱。
4)10年債金利が3%に達した時に重加算平均金利が3%だとすると、利払い費15兆円
5)日銀保有分の国債金利は日銀の経費を除く分は国庫に返納される
6)異次元緩和以降は日銀は逆ザヤで国債を購入しているので金利収益の返納は少ないハズ
7)国債の償還費も増えるが、日銀保有分は政府に還元され新規国債購入へロールオーバー
何れにしても、10年債金利が3%だとすると、100兆円の歳出の中で15兆円程度が利払い費に消えます。現状のプラス5兆円。(ラフな仮定ですが)
一方、景気回復によって税収がどの程度増えるかですが、バブル期の税収が60兆円。昨年度が56兆円ですから、消費税増税分は法人税減税でチャラになっていますから、4兆円程度の税収増。
非常にラフな計算ですが、仮に3.0%の景気回復が続くとしても、財政赤字は回復しない可能性が高く、社会福祉コストは年間1兆円ずつ増大し、さらにバラマキを現在より拡大するのだから、赤子国債の額も増えて行きます。
これ、どう言う事かと言うと、「積極財政に頼った強引な名目3%程度の景気回復」では、むしろ日本の財政破綻が早まってしまう可能性が在ると言う事。
これを防ぐ為には、10年債の金利を日銀が強引にゼロに固定する必要が在りますが、民間の金利が3%の時に0%の金利の10年債を購入する合理的理由は見当たりません。当然、民間の金融機関も、「国債金利の逆ザヤ」が発生するので、急いで国債を売り抜けようとします。こうなると金利上昇に歯止めが効かなくなります。
日本国債市場は機能しなくなるので、暴落を防ぐ為に日銀は国債の全量買い入れに踏み込む事になります。後は為替市場で円が暴落して、コントロールの出来ない悪いインフレが始まります。
■ なまじの経済成長では財政バランスの改善よりも、金融機関の保有する低金利の国債による悪影響の方が強い? ■
試算では財政拡大無しの名目成長率3%でも、平成20年度に財政収支はマイナス6.5兆円となるらしい。一方、金利上昇によって金融機関の保有する低金利の国債が含み損を生じるリスクが高くなります。地方銀行や信用金庫、ゆうちょ銀行の経営危機に発展する恐れが高い。
成長率がゼロ近傍であれば、日銀スキームで当分の間ゼロ金利で政府は資金調達出来る。これでは財政赤字は拡大し続けますが、「国債の逆ザヤ」の様な急激なリスクは生みにくい。(テールリスクは拡大し続けますから、後の世代は知ったこっちゃ無い・・・という政策ですが)
私は子供達の代の事を考えると、「現役老人の逃げ切り」よりも、「積極財政で華々しく散り、歴史に教訓を残して終わる」方が問題は少ないと考えています・・・・。財務省や日銀は「継続」をモットーとしていますから、ここは安倍政権に期待です・・・。
自分で書いていながら???な内容ですが、「リフレ派が主張する財務省の陰謀」とか「財務省はバカ?」という発言は、リフレ派にブーメランの様に跳ね返ると思っています。だって、多くの「財務省はバカ」と言う人達は、明らかにほとんどの財務官僚よりも「知性が低い」。
私も同様に「知性が低い陰謀論者」なので、とりあえず財務省や日銀の官僚の計画は、私達が考えているよりもずっとエレガントな手法なのだと妄想しています。