■ ゆうちょ銀行は「世界最大級の機関投資家」 ■
上のグラフはゆうちょ銀行がネットに公開している資産内容です。以前は、大半が日本国債で運用されていましたが、国債金利がゼロに張り付く状況で、運用の多角化を迫られるのはどの銀行も同じ。
しかし、ゆうちょ銀行は法律で住宅ローンや一般の融資は禁じられているので、外国証券などのリスク運用で金利を稼ぐ事を余儀なくされています。2017年末で資産の30%近くが「外国証券等」で運用されています。
ゆうちょ銀行は銀行とは名ばかりの「世界最大級の機関投資家」と言うべき存在です。
これをして即「ゆうちょ銀行は危ない」と言うのは短絡的です。国債金利がゼロに張り付き、国内に安全に金利が稼げる有望な投資先が殆ど無い状況にあって、どの金融機関も海外投資で金利を稼ぐのは似たり寄ったりでは無いでしょうか。
ただ、ゆうちょ銀行は、投資専門の人材を抱えていませんでしたから、他の金融機関からヘッドハントして人材を確保しています。これも郵貯銀行に限らず、農林中金や地方銀行なども同様でしょう。
■ 米金融市場を支える「追い出されたマネー」 ■
「バブル崩壊が近い」という声が増えていますが、米国経済も、金融市場も、株式市場もなかなか崩壊に至りません。」
1) リーマンショック後に世界の金利水準が低下した
2) 先進国は成長の限界に達しており、金利水準は長期的に低下している
3) 「融資」の金利がリスクに見合わなくなる
4) 人々はより高い金利を求めて資産をリスク市場に差し出す
5) 銀行もより高い金利を求めてリスク市場で資産を運用する
6) 「追い出されたマネー」の流入が続く間はバブルは崩壊しない
世界中でこの様な状況が起きている訳です。そして、中央銀行が異例の緩和的金融政策を続ける限り、市場に資金が供給され続けます。
■ リスクは管理されている様で管理されていない ■
ゆうちょ銀行を始め多くの金融機関は「リスクは適切に管理している」と胸を張って言うでしょう。ではリスク管理はどの様に行われているのでしょう。
私が何故か定点観測しているゴールドマンサックスの債権ファンドの『妖精物語』を例に見てみましょう。
ゴールドマンサックスの債権ファンド『妖精物語』の資産内訳
このファンドはリスクを「格付」で管理しています。投資適格のBBB格以上の債権で運用されています。一般的に「投資適格」とされるBBB格以上の債権はリスクが少ないと判断されます。
しかし、一度危機が発生するとBBB格は投資不適格なBB格(ジャンク債)に転落する可能性が有ります。これはリーマンショック時に経験済。比較的安全な運用をしている『妖精物語』でも、25%もの「隠れジャンク債」を抱えている事になります。さらに、リーマンショック時の様に再びモゲージ債にリスクが広がる様な事があれば目も当てられなくなります。
■ ゆうちょ銀行や、農林中金、地方銀行はかなりリスクを取っている ■
融資によって金利を稼ぐ事の難しい、ゆうちょ銀行や、農林中金や地方銀行ですが、高コスト体質でもあります。経営を支える為には「高いリスクを取る」必要が有ります。
そこでこれらの金融機関は格付けがBB以下の「ジャンク債」に手を出してるハズです。農林中金は市場のメインプレーヤーとなっている様です。
■ 金利上昇に弱いジャンク債 ■
「ジャンク債」は「ハイイールド債=高金利債」とも呼ばれます。アメリカの中小企業が融資で資金調達できない時に社債を発行しますが、本来はこの様な企業は倒産リスクが高いので10%以上の金利を設定する必要があります。
ところが、リーマンショック後の狂った様な金融緩和で金利水準が低下してしまった為、少しでもマシな金利が取れるジャンク債に人気が集まります。その為金利は5%以下に低下します。
ジャンク債を盛んに発行しているのは、自転車操業のシェール企業や、中小の小売業や製造業など。これらの企業は元々多くの有利子負債を抱えていて財状況は良く有りません。
現在FRBは着々と金利を引き上げていますが、これはアメリカの中小企業の経営を圧迫します。金利コストが上昇するからです。米経済の拡大期のピークは過ぎたとの見方が大方ですが、今後、小売業などを中心に経営が悪化する企業が増えて来ます。当然、これらの企業が発行する社債の金利も上昇します。
昨年末に米国の株価が下落した際、ジャンク債の金利も急上昇していました。これは農林中金がジャンク債の買い入れをストップした為で、金利の上昇したジャンク債市場では新規の起債がほとんどゼロになりました。
その後、今年になってから農林中金が再びジャンク債の買い入れを始めたので、金利は下がり、市場は安定しました。米国の一部のアナリストが「ジャンク債市場は今年の狙い目」と煽っていますが、この市場は既にFRBの利上げで一発即発の状況です。
■ 高コスト体質故の冒険 ■
ゆうちょ銀行は大量の日本国債を抱えていましたが、これを大量に日銀に売却しています。中古国債の金利はゼロ近傍に張り付いていますが、これは日銀が高値で国債を買い入れている事と同義です。
ゆうちょ銀行は日銀への国債売却で「高い利益」を確保してきました。しかし、その好循環も長くは続きません。異次元緩和後の国債金利はゼロ近傍ですから、国債の売却益は今後急激に縮小して行きます。(長期国債の償還では儲かりますが)
一方で、ゆうちょ銀行は全国津々浦々に営業網を持ち、ATMも大量に設置しています。大手銀行が独自のATM網すらも縮小する銀行淘汰の時代に、ゆうちょ銀行の高コスト体質は改善されません。
高コスト体質を維持したまま、国債売却という打ち出の小槌を失うゆうちょ銀行は、今後、さらにリスクを取らなければ経営が悪化します。
高齢者の老後の資金が支えるゆうちょ銀行ですが・・・「最後は国が救ってくれるから安全」って、それ僕らの税金ですから・・・。