■ 為替介入がもたらす円高 ■
9月1日のこのブログで「日銀のジレンマ」と題して書いた内容が実際に起きているようです。
http://green.ap.teacup.com/applet/pekepon/20100901/archive
<ロイターより引用>
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-17572920101007
[東京 7日 ロイター] 財務省が7日発表した9月外貨準備状況は、政府・日銀が9月に為替介入で得た多額のドル資金を即座に米国債購入に充てていたことを示唆する内容となった。
同時に米連邦準備理事会(FRB)の統計からも、同様の可能性が推測される。わずか2週間で多額のドルを売却して米債を購入したなら、米国債市場での金利低下を通じてドル相場を押し下げる方向で働いた可能性がある。運用の詳細は明らかにされていないが、円高回避の介入を実施しながら、一方で介入資金の運用でドル相場を押し下げる方向の行動があったのであれば、疑問だとの声も招いている。
9月末の外貨準備状況は円売り/ドル買い介入などにより過去最大規模に増加した。政府・日銀は9月15日に6年半ぶりの介入に踏み切ったが、財務省によると9月28日までの介入額は2兆1249億円。これにユーロ建て資産のドル換算額の増価なども加わった。
中でも、外国証券残高は8月末に比べて379億ドル近く増加し、外貨準備増加のほとんどを占めた。1ドル85円で換算すれば約3兆2215億円程度となる。他方で、外国通貨預金は11億ドル減少した。このため、介入額のほぼ全てが外国証券に回った可能性もありそうだ。
運用対象の詳細は明らかにされていないが、過去の例からみて、外国証券の大半は米国債と見られ、財務省筋は「基本的に運用はドル債が中心だ」と述べている。野村総研・金融市場研究室の主席研究員の井上哲也氏は「2週間弱で379億ドルもの規模で米国債を購入したとすると、1国の中央銀行が購入する額としてはかなり大きい規模」と指摘。
東短リサーチ・チーフエコノミストの加藤出氏も、同様に米連邦準備理事会(FRB)が毎週発表している資料で、海外当局のFRBに対する預金残高やレポでの資金運用残高の増加額が小幅だったことからみて、日本政府が介入で得たドルの大部分を民間銀行預金に置いたか、米国債の購入に充てた可能性が高いと指摘している。
こうした介入資金による大規模な米債購入があったなら、米債市場での金利低下方向に働きやすいとの指摘が浮上。野村総研の井上氏は「短期的には日米金利差を縮小することで為替介入の効果を減殺する可能性もある」とみている。市場全体のドル売りの流れはもちろん大きいが、さらなるドルの押し下げの一因として働いたことは否定できないというわけだ。
2003─04年にかけて日本政府が実施した為替介入に比べ、今回は預金から外国証券購入までの期間が短い。米金利低下を招きドル安の流れを加速させるような方向での政府のドル運用姿勢に対し、井上氏は「少しでも円高回避に寄与するためには、介入で得たドル資金を放出して米債を購入するよりも、そのままFRBのドル預金に置いておくべきだった」と指摘。加藤氏は「憶測の範囲を超えるものではないが、市場介入に対する反発が米政権内から生じることを警戒して、日本政府は懐柔策として米国債の購入を9月中に積極的に行ったのかもしれない」とみている。
(ロイター日本語ニュース 中川泉記者 伊藤純夫記者)
<引用終わり>
今回の日銀の為替介入の結果などはプロ中のプロである日銀には予測の範囲内だったはずですから、介入規模が2兆円程度で留まっている事は、国民にとって幸いな事だと言えるでしょう。
■ 勝間氏もたまには良い事を言う ■
リフレ派の旗手である勝間氏ですが、お金さえばら撒けば有効需要が喚起されると無邪気に信じているような言動が目立ちます。その勝間氏が日銀の量的緩和の弊害に気付いているようなので引用します。
<引用はじめ (出展不明) >
なお、私は今回のオペでも私のある仮説に日銀が従って動いており、やはりそうなのか、と思ったことがあります。それはなにかというと
「日銀はデフレ脱却はしたいとは思っているが、市場に出回っている国債の流通価格を大きく引き下げるようなリスクとってまではやりたくない」
という呪縛があるのではないかということなのです。
例えは「インタゲを1%」とか「2%」と明確にコミットしてしまうと、いまの国債利回りはそれよりも小さいものばかりですから、もしマーケットが「長期利率も1%以上、ひょっとしたら2%も越えてくる」と考えた瞬間、国債の見切り売りが流通市場で始まり、収集がつかなくなる可能性があるためです。
そして、政府系金融機関や、民間金融機関、年金ほか、さまざまな金融機関が大量に保有をしてる国債が、たとえば日銀のインタゲコミットにより、利回りが1%以上上昇して評価損を大きくくらって、銀行によってはBIS規制にひっかかったりしたら、日銀が守りたい「金融システムの安定性」を自ら揺るがせてしまいます。それこそ、日銀が守りたいと思っている庭先の人たちに対して、親分自らはしごを外すわけですから、非難囂々でしょう。そういうことを恐れているのではないかと思う節があります。
なお、金融機関がインタゲで保有国債が評価損を食らったとしても、他の資産、たとえば保有株式が値上がりしたり、不良債権が回復して回収できるようになったり、新規の優良貸出債権が増えれば、銀行の資産全体は痛まないはずです。100%国債の資産ポートフォリオでない限り。ただ、多少のタイムラグができたり、そのときにうまく乗りきれる銀行、乗りきれない銀行が出てくることもあるでしょう。
「手許の物価は上げたいけれども、長期金利は現状よりできるかぎり上げたくない」
この「Mission Impossible」のようなバランスを取ろうとする限り、よほどクリエイティブな施策でないと、今後も日銀の緩和策は歯切れが悪くなるし、マーケットの実効性もなめられてしまうのではないかと思います。
デフレは脱却したいが、あまり強い薬を打つと、長期の名目金利も大きく上がってまうので、漢方薬でもいいから打ち続けながら、なんとか現状の国債(しかもそのほとんどを国内金融機関が保有している)の大きな評価損も避けながら、せめて「1%」までいけないか。
そんな日銀の苦悩を感じ取った包括緩和でした。いずれにしても、「タダ飯はない」ということに早く気付いて欲しいです。
参考~残存10年、クーポン1%の実効利回りごとの価格めやす
1%・・・100円(基準と考えた場合)
2%・・・91円(評価損9%)
3%・・・83円(評価損17%)
4%・・・75円(評価損25%)
残存年数が小さければ、評価損はもっと小さくなります。2009年12月現在、国内金融機関が保有する国債残高は631兆円、全体の76%のシェアです。5%の評価損だけでも31兆円、10%になると63兆円の負担です。
市場にぶん投げられた国債を思考実験的にはひたすら日銀が買い取ることも可能は可能でしょうが、それはかなりの物量作戦になるリスクがあります。
それよりは、その評価損が他の資産で吸収されるかいなかを考えた方が、健全でしょう。
<引用終わり>
・・・日本国債の保有率が80%を越える郵貯は国債暴落で破綻します。同じく日本国債での運用割合の多い日本生命を筆頭とする生保各社も破綻するでしょう。勝間氏の提言が実現不可能な事は誰でも分かります。
結局日銀は国家破綻のその日まで、低金利政策を維持するしか無いのです。
■ 通貨安戦争の本質は低金利戦争 ■
日本に限らず、リーマンショック後の財政の大判ふるまいで、各国政府は巨大な財政赤字を抱えてしまいました。
リーマンショック以前の世界は、通貨を維持する為に、アメリカを筆頭に高金利政策を取っていました。ところが、リーマンショック後に民間の赤字を政府が肩代わりする為に大量の国債を発行したので、各国の長期金利は軒並み低下しました。
低金利は国債の発行コストを抑える効果を生じ、さらなる国債増発を可能にしました。しかし、ギリシャ危機以来、世界各国はある不安を抱えています。
それは金利上昇による国債の暴落です。
① 金利上昇によって低金利の国債が売却される
② 国債の売り圧力によって、国債価格が低下する
③ 国債利回りが上昇する
④ 長期金利が上昇して国債の発行コストが財政を圧迫する
⑤ ソブリン危機が発生して経済が破綻する
日本がバブル崩壊以降陥った罠に、世界全体が陥っています。「通貨安戦争」などと報道されていますが、それは結果であって、本質は「低金利戦争」です。
■ 輸出国と輸入国で異なる「通貨安」 ■
第二次世界大戦直前の「通貨安戦争」になぞらえる向きもありますが、今回の通貨安は異質です。第二次世界大戦前は、アメリカを始め先進各国は輸出に経済が依存していましたから、現在の中国や韓国の様に通貨安は国益でした。
しかし、内需型に転換した現在の先進国、特にアメリカやイギリスなど輸出産業が衰退した国では通貨安は輸入コストの増大によるインフレ圧力しか生み出しません。
景気が低迷している現在、企業は販売価格を据え置いて価格上昇を抑制していますが、それにも限界があります。輸入コストの増大が価格転嫁された時、景気低迷にも関わらず金利が上昇し始めます。「悪性インフレ」の発生です。
財政赤字をパンパンに膨らめた状況での金利上昇は、国債暴落の引き金になりかねません。
■ 通貨クライシス ■
日本の財政赤字はGDPの200%に迫りますが、日銀の低金利維持(不景気政策)で、国家破綻を20年間先延ばしにしてきました。輸出産業が健全な日本は、それでも経常黒字を維持し続けています。
「円」が買われる理由は、20年の低成長時代を生き抜いた実績を世界が評価している現れです。しかし円高は確実に日本経済に悪影響を与えています。
「ユーロ」は「拡大マルク」ですから、ドイツとPIGSなど後進ヨーロッパの収支によって評価が左右されます。ギリシャ危機で減価したユーロですが、PIGSを切り捨てるという荒業が残されています。尤も、その場合はPIGSの国債が暴落してヨーロパの銀行の健全性は大きく損なわれます。
「ドル」の通貨安は寄生政策です。ドル安にもめげず、日本の政府と民間は粛々と米国債を買い続けています。ドル安によって、米国債の購買力は何割か水増しされ、償還コストは軽減しています。
さらに「ドル」は「元」に対して減価する事で、中国の米国債購買余力を増やそうとしています。(投資回収時に為替差益を積み増す目的もあります)
どれを取っても、持続不可能な状況がいずれは訪れます。
結局現在の「通貨安戦争」は「通貨クライシス」を生み出すマグマの様なエネルギーを貯め続け、いつかそれが一気に噴出すのでしょう。