実に面白い作品に仕上がっている。それはここには太宰治に対する明確なアプローチがあるからだ。従来のパターンではなく、新鮮な太宰像を提示する。ユダとキリストのドラマである太宰の『駆け込み訴え』を題材にしたロヲ=タァル=ヴォガ の切り口は斬新な太宰を提示することに成功している。
作、演出を担当した近藤和見さんは素材に対してきちんとした距離を取る。太宰に寄り過ぎないし、距離を置き過ぎない。ほどほどの . . . 本文を読む
ちょっと軽い小説が読みたくて、この本を手に取った。『笑う招き猫』の山本幸久の短編連作だ。「東京世田谷線沿線を舞台に描く、ささやかな変化と希望の物語8編」と本の帯にはある。確かにそんな感じだ。主人公たちはそれぞれいろんな問題を抱え生きている。そんな彼らの問題と向き合い、ささやかな解決を提示してくれるハートウォーミング。こどもから老人まで様々な世代が登場する。
なんでもない話ばかりだ。どうってこ . . . 本文を読む
龍・companyの3年振りの新作だ。『deep deep cheap blue』という象徴的なタイトルはこの作品世界そのままを表す。この作品が描く混沌は極めて現代的な事象なのだが、ここまであからさまに見せられたら、ちょっと腰が引けてしまう。もう少しオブラートに包み込んだ表現があってもいいのではないか。
あまりにストレートで、しかもそれが観念的な世界観の中で話が展開するから、ここから先に世界 . . . 本文を読む
痛ましい。この悲痛な話と向き合うのは正直つらいことだが、ここから目を離せないのも事実だ。30歳前後の女をテーマにした小説や映画は数多く作られた。この作品もそのひとつでしかない。だが、「そのひとつ」という軽い括りをあえてさせてしまうところにこの小説の覚悟がある。どこにでもあるお話として、流してくれてもかまわない。大々的にセンセーショナルに取り上げる必要はない。だが、ここから目をそらすな、と言う。と . . . 本文を読む