習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『愛を読むひと』

2009-07-02 21:59:27 | 映画
 数年前に偶然読んだ『朗読者』は実に面白い小説だったが、それがなんと映画化された。で、この日本語タイトルである。なんだかなぁ、と思う。これってけっこうベストセラーになったんではないのか? なのに、映画ではこんなあほタイトルにさせる。まぁ、仕方ないか。映画は売れてなんぼ、だから。

 衝撃的な内容である。なかなか、先が読めないし。『おもいでの夏』の、ハード版か、というような始まりだ。15歳の少年と、30代の女性の恋。だが、なんだかきれい事ではなく、どろどろ。セックスシーンもたくさんあって、どうなるんだ、これは。R12のくせにポルノか、と思わせる。だが、衝撃、というのはそのことではない。もちろん。

 彼女が去っていき、ひと夏の恋も終わる。彼は大学生になり、法律を学ぶ。そこで、偶然彼女と一方的に再会する。法廷でアウシュビッツの看守側の裁判を傍聴し、その被告席に彼女を発見するのだ。映画はこの第2章が衝撃なのだ。

 ホロコーストを被害者側から描く映画は5万とあるが、加害者から描き、しかも、ナチではなく、ただの労働者でしかない女たちの側から描くのである。22歳の頃、アウシュビッツで働いていた。仕事を求めて、職を得ただけだった。彼女は純粋に仕事として、生きていくため、虐殺をした。殺人に加担したことは事実だ。だが、戦争中である。ただ、言われたことをこなし、お金を貰うだけ。もちろん、そんなふうに簡単に割り切れる問題ではないことなんか誰にでもわかる。だが、彼女一人が罪を背負わされるのはおかしい。なのに、同じ職場にいた周囲の女たちは自分たちの罪を彼女にかぶせることで生き延びようとする。

 文字が読めないこと。その1点を起点にこの映画は大きく展開する。ケイト・ウインスレットがこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞した。彼女の渾身の演技が評価されたのはよかった。彼女は捨て身でこの女を演じた。女が、たった一人で、生きていく。その痛みを見事に体現したのだ。

 朗読者である少年デビット・クロスは、初々しい魅力と、屈折をよく表現した。(大人になると、また、この手の映画の常連レイフ・ファインズになるのがなんだか、だが)面会に行こうとして、でもどうしても会えないというシーンがいい。

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