習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『重力ピエロ』

2009-07-02 21:02:41 | 映画
 久しぶりに時間を作って映画を見た。どうしても見ておきたい映画だったから、2本続けて見た。なのに2本とも、とても嫌な気分にさせられる映画で、ぐったりだ。だが、映画自体は当然のことだが、とてもよく出来ている。

 正直言って、レイプとか、ホロコーストとか、それによって、家族がぐちゃぐちゃになってしまったり、裁判にかけられ刑務所に無期懲役で入れられたり、しかも、その償いが、犯人を殺すことだったり、刑期を終えて出所の前に自殺だったり、なんとも救いがたい。偶然だがそんな映画を連続で見たりしたら、さすがに気分が殺伐となる。

 さて、最初は、『重力ピエロ』である。封切りから1ヶ月以上経ち、ようやく評判のこの映画と対面した。だが、期待したほどではない。家族の崩壊と再生のドラマというには、なんだか、話があまりに作られすぎていて、うそくさい。伊坂幸太郎原作だから仕方ないのかもしれないが、森淳一監督の方向性と原作自体の目指すものが微妙にずれているのではないか。作り物の話でぐいぐい引っ張り、そこに一滴の真実を垂らす。そのブレンドが伊坂小説の映画化を成功させる秘訣だ。だが、それにはこの映画の姿勢は真面目すぎた。もっと軽やかさが欲しい。

 渡部篤郎演じるレイプ犯が酷い。彼がまるで罪の意識を持たない、という設定はおもしろいのだが、なぜ彼が春(岡田将生)からのコンタクトを簡単に受け入れるのかがわからない。レイプによって生まれた自分の息子であることが関係してるのだろうが、その辺がちゃんと描かれないからラストが唐突だ。大体、廃屋に連れてこられて、警戒もせずのこのこ着いていくか?しかも、火を放たれて助けてくれ、とかなんだか単純すぎ。 

 だが、渡部本人は、高校時代30人もの女性を暴行し、たった5年で出所して、また好き勝手しているというモンスターを軽々演じていて悪くはない。そんな彼を、春と彼の兄である泉水(加瀬亮)が別々にアプローチをかけ彼に迫るのだが、ミステリーの側面よりも、家族の関係を描く部分の比重が大きいから終盤のこの急展開についていけない。

 徐々に語られる母親の死の真相(回想で少年時代が幾度となく描かれるのがいい)、さらには進行していく父親の病気。兄弟の絆。この家族の危うい関係性が絶妙に描かれるから、偶然から、連続放火犯を追うというメーンの話のほうがどうしてもおざなりになる。しかも、終盤の種明かしも、なんだか、中途半端で、だいたい2人は殺人犯なのに、警察は彼らを逮捕しに来ないなんて、いつからこの国は無法国家になったのだ。

 エピローグで描かれるサーカスのシーンも、無理矢理タイトルと絡ませたみたいで、強引過ぎた。

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