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映画・演劇のレビュー

菰野江名『さいわい住むと人のいう』

2024-11-05 07:04:00 | その他

凄い力作である。デビュー作『つきはぐ、さんかく』で注目した彼女の第2作だけど、若い作家がこんな作品に挑むなんて、驚きだ。DVを中心にして、ひとりの青年の老女ふたりとの出会いから始まり、彼女たちの死からこれまでの軌跡を追う長編小説。

 
思ったほどには作品世界は広がらない。82歳の老女とふたつ年下の妹。ふたりは大きな屋敷でふたりきりで暮らしている。そこに新しく役所の福祉課に入った男の子が挨拶を兼ねてやって来るところから始まった。だけど話はすぐに何故か彼の母親の話になり(20年前彼女をふたりが助けた)は、さらにはふたりの老女の話に移行していく。20年前から、さらに20年、そしてまた20年と遡っていくと、ふたりの老女は二十歳と22歳の若い女性たちになっている。彼女たちの人生の選択の瞬間が描かれる。
 
これは大河ドラマである。3世代のお話は過去から未来に向けて流れていく。夫のDVから逃れて幼い息子とふたりで生きる覚悟をした母をふたりの姉妹が助ける。すべてはそこから始まった。だけど大事なのはそこではない。ふたりはこの親子だけでなく、たくさんの人たちを助けている。そのことはこの小説の中では敢えて描かない。この親子にすべてを象徴させる。
 
実に見事な構成である。これだけの長編を菰野江名はかなり危険な綱渡りで描き切った。ただ、姉と妹との確執だけでなく対決まで描けたならもっといいけど。そこは少し惜しい。

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