こんな時代劇大作映画が白石和彌によって作られる。しかも山田孝之と仲野太賀が主演である。渋すぎて心配する。東映久々の映画である。ブロックブッキングは崩壊して定期的な配給作品すらなくなった時代に作られた徒花のような映画。最後の打ち上げ花火を思わせる。ならば見事咲かせて潔く散ればいい。
そんな悲壮な覚悟で劇場に行く。日曜の朝一、梅田の旗艦劇場、大スクリーンでの上映。なのにまるで客がいない。なんと僕を含めて7人だった。驚愕の不入り。
だけど、今見終えて興奮している。涙が出て困った。素晴らしい大傑作である。深作欣二が生きていたら涙を流して悔しがったはずだ。こんな映画を彼も撮りたかった、はず。笠原和夫の熱い想いを引き継ぎ、白石和彌が渾身の一作を作る。しかもこれは瀕死の東映映画である。これは『仁義なき戦い』を凌ぐ集団抗争(時代)劇、さらには『七人の侍』に迫る時代劇映画。見たばかりだから敢えてそこまで言う。冷静とは言えない。
主人公の山田孝之は誰にも与しない。孤高をゆく。信じるのは自分と最愛の妻だけ。だから妻を愚弄した侍を殺す。映画はそこから始まる。当然賊軍にも官軍にも与しない。生き残るために戦う。(逃げる)もうひとりの主人公仲野太賀は信念を貫く。それは正義のためではなく彼もまた自分のためだ。そして彼らだけではない。実はここには主人公はない。泥だらけになって戦う彼らみんなが主役である。