寺田夢酔が今回取り上げたのは三島由紀夫の『近代能楽集』。「班女」「熊野」「葵上」の3つのエピソードを2本立で上演する。重い芝居だから、3本一挙上演ではしんどい、という配慮か。
僕が見たのは「班女」と「熊野」。2本で1時間20分。あっという間の出来事だった。なんとも不思議な空間に誘われる。そこはリアルではなく、象徴的で、極度の緊張を強いられるそんな空間だ。少人数の男女によるあからさまな感情が行き会う異形の空間がそこには現出する。
能の演目を題材にして、現代劇として再構築した三島の作品を取り上げ、ふつうの人の心のありようをクールなタッチで捉えていく短編2本立。短いからこそ、人間の本性があからさまに表れ、深く突き刺さってくる。緊密な空間で、人間の狡さ、弱さ、怖さをストレートに描く。包み隠すことなく、見せる。リアルな会話劇ではなく、真正面から人間の内面を吐露していく。本来ならオブラードにくるんで見せるものすら、ストレートに見せる。虚構の物語のなかに真実が詳らかにされる。役者も、観客にも逃げ場は用意されない。