大好きな『藍色夏恋』のイー・ツーイェン監督の新作である。なんと10数年振りの第2作だという。彼はあの傑作からずっと、雌伏していたのだ。そんなこんなで満を持して放つこの新作は、なんとコメディで、こんなにもバカバカしいお話。でも、おふざけではなく、とても真摯な青春映画になっているのが、彼らしい。夜の台北の町、彼らが通う学校。雨に濡れた舗道。そういうロケーションがとても効果的で、胸に沁みる映画になった。もちろん、あの『藍色夏恋』の再現を期待した向きには少し物足りないし、肩すかしを食った気分でもある。だが、バカバカしさと背中合わせの切実さが胸を打つ。そこにこそ、この映画の意義がある。
学校の倉庫にある孫中山(孫文)の銅像を盗み出して売り払おうと画策する高校生たちのバカ行為は、あまりに杜撰な計画で、ありえない、と笑うしかない。しかも、彼らだけではなく、同じことを考える別グループも現れて、クライマックスは両者入り乱れての争奪戦になる。このナンセンスでしかないお話をイー・ツーイェンは、静かなタッチで淡々とした映画にして見せる。その結果この映画はリアルではなく、ファンタジーでもなく、象徴的に彼らの置かれた現実をシリアスに見せることとなる。授業料を払えない貧困を笑い飛ばすのではない。切実な現実を突き付けるのでもない。そのあわいで、本気でこの銅像に執着する彼らの姿を映画は客観的に見せていく。でも、それはとても胸に痛い。
主人公2人が出会うシークエンスもそうだ。延々と地下鉄を乗り継いで、追跡していく姿を追う長いシーン。それぞれの家庭に行き、それぞれの現実を知り、共鳴した、と思うと、出し抜かれる。あくまでも青春映画というパッケージングを守り、バカだけど、そんなバカが心に沁みてくる佳作に仕上がっている。(字幕なしで見たから、会話の内容がわからないから、細部はまるでわからないのだが、それでも、雰囲気は伝わる。ちゃんと、字幕がある状態で見たなら、もっと、彼らの心の綾が伝わるはずだ。)
あのセーラームーンばりの女の子のお面(それが一番安かったから買った)がいい。みんなあのお面をつけてミッションに挑むのだが、2つのグループが同じお面だけから途中からどちらがどちらだかわからなくなるという、これまたバカな設定が、結果的に同じ目的に向かう彼らの団結を示すようで、面白い。