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映画・演劇のレビュー

素の会『父と暮らせば』

2024-12-14 13:03:00 | 演劇
劇団大阪、シアター生駒の杉本進が演出、主演する。娘を演じるのはシアター生駒の中西康子。もちろんこれは言わずと知れた井上ひさしの傑作戯曲である。公演会場は東生駒ギャラリー宗。狭い空間が心地よい。

このふたり芝居を朗読劇として見せる。原爆投下から3年後の広島。ひとりぼっちの娘のもとにあの日亡くなった父がやって来る。

なんと客席と役者たちとの距離は1メートルない。こんなにも近くで芝居を見るなんて生まれて初めてのことではないか。しかもこれは朗読劇である。だから役者は基本椅子から動かない。僕はたまたま最前列の上手の席に座ったから、杉本さんは目の前にいた。生の芝居をこれだけの至近距離で体験することはない。

ふたりはただテキストを読むのではなく、表情で演じる。一応はリーディングだけど、ポイントポイントで顔だけで演じる。中西さんは椅子から立ち上がり、地蔵を手に取っての芝居もある。ただ父と向き合うシーンでも杉本さんの方を見ることはない。並んで座っているにも関わらず、ふたりはそれぞれ1人1人の芝居を演じる。

台本のト書きは豊麗線の島村速雄が担当した。照明、音響もきちんと使っている。限りなく通常の芝居に近い形での上演になる。

緊張感が持続する。中西さんが作る世界を杉本さんが包み込んでいく。亡くなった父がやって来て娘の恋の後押しをする。終盤、死ぬべきだったという娘を叱りつける父。原爆投下の時、手紙を拾うために屈んだから、生き延びたこと。生死の境い目にいたあの瞬間から3年。ずっと引き摺り続ける想い。自分の内面に籠り暮らす彼女を父はなんとかして助けてあげたい。ふたりの想いが交錯する。

朗読劇というスタイルだから可能なことがしっかり成し遂げられている。切ない。

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