こんな小説ありなのか、と思った。作者の目の付けどころに驚く。「狭いアパートの一室から、地上2cmの世界を踏破する冒険」とはよく言ったものだ。これは小さな世界の大きな冒険だ。ドキドキさせられる大冒険なのだ。
たった100ページほどの中編小説で、文藝賞を受賞した作品なのだが、この中途半端な長さが実は心地よく、不安。ここにあるのは短編の切れ味ではなく、長編の満足感でもない。中途半端な空虚感だ。最初は自分で「アイ」(タイトルにある「眼球達磨式」のホビー用RCカー)の操作をしていたけど、彼(彼女? アイのことです!)が暴走するところから本来ならお話の本題に突入するところだ。でも、これはそうはならない。
コントロールが効かなくなったアイと、アイを探す持ち主とのドラマは描かれないまま、終わる。機械の目を持つことになった人間がどういう顛末で、どこに至るのか、それを敢えて描かないのだ。女に導かれていくラストも確かに衝撃的な展開だけど、あれは短編小説のオチだ。あれだけでは、長編小説の最初の100ページだけ切り取り、それだけで強引に終わらせてしまった、という印象しか与えないラストである。
先日見た映画『チタン』のような怒濤の展開をこの先に期待したい。この小説はせめて250ページくらいのボリュームがなくては成立しないのではないか。惜しい。この作品でデビューしてこれから活躍していく予定だったのだが、この作者は事故で亡くなったらしい。その事実もまた衝撃的だ。まだ、20代の若者なのに。ここから始まるはずだったのに。