ずいぶん前から配信されていて少し気にはなっていた映画だが、なかなか見る機会を持てなかった。きっと優しいハートウォーミングだけど、なんだかパンチに欠ける気がして後回しにしていた。ようやく見たのだが、これがとてもよかった。こんなことならもっと早く見ていてもよかったのではないか、と思う。95分の短い映画だ。お話も単純。『アメリカン・ビューティー』でアカデミー脚本賞を受賞したアラン・ボールが監督・脚本を手がけた小さな作品。
1970年代前半のアメリカ南部。まだまだ差別や偏見が蔓延っている古い田舎町。フランクおじさんは祖父から嫌われている。ベスはおじさんが大好き。おじさんはこの町を離れてニューヨークで暮らしている。大学で教鞭を執っている。彼女はおじさんに憧れ、おじさんの大学を受ける。都会に出てきた彼女はそこでおじさんの秘密を知る。同性愛者だったおじさんは高校時代にそのことを父に知られ、それからずっと疎まれていたのだ。だから町を離れニューヨークに出てきた。ベスはそのことを知り、自分のおじさんへの気持ちもう一度見つめなおす。もちろん変わらない。彼が同性愛者であるから騙されていたとか、気持ちが悪いとか、そんな偏見はない。ただ、驚いただけ。大学生になったからといっても、彼女は18歳で、まだ少女でしかない。
そんなとき、祖父が死んだ。(もちろん、おじさんの父親だ)彼女は帰ることを渋るおじさんを引きずり葬儀に参列するため帰郷する。おじさんの恋人(当然男性で、おじさんとはもう10年間も一緒に暮らしているアラビア系の男だ)が隠れてついてくる。ここから映画はロードムービーになる。3人の旅。そして葬儀。衝撃的な遺書。穏やかなエンディングまで。一気にたどりつく。
暖かい陽ざしの中、フランクおじさんとベスはようやくふるさとの町に帰郷する。たったこれだけの映画なのだ。でも、これだけのことをずっと抱えてフランクおじさんは今まで生きてきた。映画の後半、ニューヨークから車で旅する3人を描くシーンが素晴らしい。この短い旅を通しておじさんは今までの自分と向き合う。帰郷後のまさかの展開以上にこの穏やかな時間を描いたシーンがいい。最初に「きっと優しいハートウォーミングだ」と書いたが実はこれはかなり厳しい映画なのだ。だからこそ、あの穏やかな道中の描写が生きてくる。おじさんは自殺なんかしない。