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映画・演劇のレビュー

『四枚目の似顔絵』

2011-03-10 22:00:00 | 映画
ひとりぼっちになってしまった少年の孤独な毎日が静かに描かれていく。昨年の台北国際映画祭で、主人公を演じた少年ビー・シャオハイが最年少主演男優賞を受賞して、評判になった映画。うちの嫁さんが現地で見てきて、「きっと(僕が)好きな映画だと思う」と言っていた。台北映画祭の公式プログラムを見たときも、解説は読めないから、ともかくとして、写真を見て、この映画が一番気になっていたから、今回の大阪アジアン映画祭で上映されたのがうれしい。余談だが、今回のラインナップの中に、昨年正月台北で見て興奮した『十月囲城』が入っていて、それも嬉しかった。ようやく日本公開も決まったようだ。それにしても『孫文の義士団』というタイトルはどうだか、と思うが。

さて、本題に戻る。

少年は、父と二人暮らしだったが、父が死に、ひとりになる。身寄りは誰もいない。10歳にも満たない子供が天涯孤独になる。世界で自分がたったひとりになった瞬間の不安と怖れ。彼は表情も変えずにそれを受け止める。葬式を終えて、本当にひとりぼっちになった時のこころぼそさ。小学校の用務員をしているおじさんと食事をするとき、おもわず涙をこぼす。おじさんは「泣くな」と怒鳴る。中途半端な情けをかけても何にもならないとは思うが、それにしてもあんなに怒らなくてもいいだろう、と思った。

結局、離婚した母親が、仕方なく彼を引き取ることになるのだが、母は他の男と再婚しており、幼い子供もいる。当たり前のことかもしれないが、義父にあたる男は、突然やってきた少年のことを好ましくは思わない。表面的には穏やかに振る舞うが、本当はそうでないことなんて明らかだ。彼ら夫婦の生活は苦しい。なのに、少年がやってきて、彼らの生活は掻き乱される。しかも、それだけではない。実は、その男は、母親が連れてきた少年の兄を殺しており、それを秘密にしている。そんなことも知らずに少年は、居なくなったというその兄のことを男に尋ねる。

少年はとても静かでおとなしい。最初からここには居場所はない。そんなこと、わかっている。しかし、ここから出ていくわけにはいかない。学校にも居場所はない。友だちは偶然公衆トイレでうんこをしていて出会ったチンピラ風の男だけだ。(隣の個室で、紙がなくて困っていたその男を助けたのがきっかけだ)彼は少年のことを、認めてくれる。一緒に窃盗をしたり、空き巣をしたりする。ろくでもないことなのは、わかっている。だが、どうでもいい。楽しい訳ではない。映画は、この少年の姿を淡々と追いかけて見せるだけだ。肯定も否定もない。ただ、ありのままを見せていく。その抑えたタッチはすばらしい。確かにとてもいい映画だと思う。だが、今ひとつその先へと踏み出さないのがもどかしい。よく出来た映画であるだけに、この少年の秘められた思いが、伝わらないのが、やはりもどかしい。

彼の書く三枚の似顔絵が映画のアクセントとなり、その時の彼の気持ちを象徴する。1枚目は死んだ父の似顔絵。それが葬式の写真の代わりになる。2枚目は学校の授業で描かされた友だちの似顔絵。先に書いた唯一の親友であるチンピラの性器を描く。ふざけた行為ではない。先生が「友だちの特徴を一番よく表している部分を描いてね」と言ったから、それを描いた。そして、3枚目は行方不明になっている兄の姿だ。

ラストで、四枚目の似顔絵を描くところで映画は終わる。四枚目は自画像だ。彼がどんな絵を描くのかはわからない。鏡に映った自分の姿を見つめる。そこには特別な感情も想いもない。


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