習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『羊と鋼の森』

2018-06-15 21:56:18 | 映画

見る前は、この小説が映画になんてなるのか、と思った。起伏のない淡々としたお話である。地味すぎる。しかも、監督はちょっと甘い青春映画『オレンジ』を作った橋本光二郎だ。でも、思ったよりもよく出来ていてホッとした。前半の緊張感は素晴らしい。ピアノの音以外の音楽はほとんどない。セリフも少ないし、無音のシーンが多く、それがこの映画に緊張感を与える。風景が素晴らしい。雪に閉ざされた町、ただ黙々とピアノと向き合う場面。そんな描写が力を持つ。なのに、後半になると、なぜだか、要らない音楽がどんどん入ってきて、無意味にドラマチックな展開を見せる。邪魔だ。緊張が殺がれる。説明的になる。

 

この内容なのに、2時間14分の長尺である。しかも、こんなにもストーリーらしいストーリーがない。淡々とした描写で繋いでいく。こんなことでこの映画は大丈夫なのか、と心配するくらいだ。

 

主人公の山崎賢人演じる新米ピアノ調律師の成長物語なのだが、ドラマチックな描写はない。カメラはただ彼の日常だけを追う。現場から現場へ動いていく。特別なことはない。ただ、毎日同じことの繰り返し。そこがこの作品のよさなのだ。だが、作り手はそれだけで最後まで引っ張るのが怖くなってきたのか、バランスを崩していく。クライマックスの発表会のシーン(というか、本来は、そこはクライマックスではないのだが)や、その後の展開も要らない盛り上げ方をしている。惜しいと思う。この小説を取り上げるというのは、こんなにも映画的ではないお話を映画として受け入れる覚悟がなくては成立しないのだ。そのことを承知の上でこんなにも我慢したはずなのに。どうして我慢できなかったのか。山崎賢人があんなにも頑張っているのに、演出が頑張れなかったのが惜しまれる。これではもったいない。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『軍中楽園』 | トップ | 劇団大阪『見よ、飛行機の高... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。