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映画・演劇のレビュー

宮下奈都『ふたつのしるし』

2015-02-25 20:23:13 | その他
2011年3・11にふたりは出逢い、2011年12月31日に子供が生まれる。それから10年後、しるしと名付けられた2人の娘は、自分の生い立ちについて小学校の宿題である作文に記す。小説のラストはその作文だ。

ふたつのしるしが、それぞれ生まれ、生き、出会う。生まれたところから始まる人生という物語における4つの時間が、短編小説のようにして、読み切りでつづられる。対になったふたりの4つの時間の8つのエピソード。1991年、5月。97年9月。03年5月。09年7月。そして運命の日、2011年3月11日。ハルは出会うべくして、遙名のところへ行き、彼女を家まで送り届ける。(これは震災を描くけど、震災に小説ではない。)

いつも違和感があった。うまく世の中に混じれない。生きることが苦手。人とかかわることができないから、どこにいてもひとりだった。ハルはそれでいいと思い、世界とアクセスしない。遙名はなんとか、うまくそこにまぎれこんで存在を消す。ハル。小学校1年、中学の頃、高校を中退して、電気技師になる。遥名。中学の頃、高校になり、大学に行く、一流企業に入る。ふたりは5つほど年の差があるけど、同じ時代を別々の場所で生きる。

この世の中には、きっと、こんなふうにして出逢う人がいる。だが、出逢うべき、その人と、出逢えないまま、一生を終えてしまう人もいる。出逢ってもタイミングが悪くて、うまくいかない場合もある。だから、この奇跡をしっかり胸に刻もう。この小説と出逢えてよかった。未来の希望はある。



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