習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『Watch with Me ~卒業写真~』

2008-05-25 20:58:02 | 映画
昭和54年に中学三年生だった。九州、久留米の田舎町で、転校生の彼女はカメラを持って学校にやって来た。ボックス型のライカ。そのオーソドックスな写真機を手にして、さまざまな風景をカメラに収める。彼は彼女から写真を教えてもらった。あの夏、2人はいつも彼の部屋でとりとめのない話をしていた。

 あれから20年も30年もの歳月が流れた。彼は末期がんで、もうあと半年の命だ。本当ならカメラマンとして、これから第一線でどんどん活躍していくはずだった。だが、今、故郷の町に戻ってきて余命を妻とともに過ごす。

 彼の中に去来するにはあの夏の少女のことだ。あれが彼の短い人生の始まりだった。あの日の夏の記憶と、この冬の残り少ない時間を往還して、彼はこの現実のこの町を見ながら、そこにあの日のこの町での輝いていた時間を幻視する。もう一度この町をカメラに収めようとする。人生の卒業写真として。

 これはとても切ない映画だ。もう生きることを諦めた男の最後の願い。自分の原点であるこの町をもう一度カメラに撮る。最期の写真集を作ること。それは『卒業写真』と名付けられることになる。妻は彼の願いのために全力を尽くす。撮影を通して妻は自分の知らなかった彼が見えてくる。それは自分以外の女の面影を追い続ける夫の姿だ。そんな彼を手助けし、見守ることは本当ならつらいことだ。

 混濁する意識のなかで彼は最期の報道カメラマンとして世界中の紛争地を駆け巡った。いつも命の危機と背中合わせだった。そんな夫をハラハラしながら見守り続けた。そして、最後の最期まで見守り続けることになる。少しくたびれたそんな40女を羽田美智子が演じる。そして、死を待つだけのがん患者を津田寛治が演じている。主人公の2人がとても地味で、その地味さがこの映画の魅力であろう。ひっそりとこの世界から忘れ去られていく夫婦の姿を通して、人が生きていくことのつらさ、素晴らしさが伝わってくる。

 実は、すこし丁寧すぎて、テンポも悪く退屈な映画になっている。全体のバランスもよくない。子どもの頃の描写はとてもいいのに、大人の部分がいたずらに暗くて、だらだら長い。2時間5分という上映時間もこの内容を考えるに長すぎた。真面目で誠実な映画だが、これではしんどい。

 主題歌は言わずと知れたユーミンの名曲『卒業写真』。ハイ・ファイ・セットによるオリジナル・バージョン。ただし、内容とはあまりシンクロしない。このあまりに有名な歌のイメージとこの映画自体は全くマッチしないのはつらい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« プラズマみかん『ぼうふらと... | トップ | 劇団73『Gossip Turn』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。