フィリップ・ガレルのこのモノクロ映画はまるでヌーヴェル・ヴァーグの作品のようだ。(もちろん彼自身もそういうものを求めているのだろうが)この渇いたタッチと、淡々とした描写は今の映画にはない。個人的なものを、小さなお話を、それだけで見せていく。テーマとか、思想とか関係ない。そんなことより、目の前の現実と向き合う。いや、それすらない。ただ、ある今。それがそこにあるばかり。実にそっけない。
別れた妻、子供。新しい恋人。そんな中、自分の現実の中をただただ漂うばかり。嫉妬しているのは彼ではなく妻や恋人のほうで当事者である彼は何も感じていないようなのだ。でも、それは彼をドンファンとして描くことではない。ただ、そこにいるだけ。特別な感情が描かれない。
美しいモノクロ映像は35ミリで撮られてある。フィルムもモノクロフィルムを使用したらしい。(カラーで撮ってモノクロにする、というパターンではない)オーソドックスすぎる映画なのだ。そんな中で、80分足らずの短い映画は彼の日常を確かに切り取る。
何も考えることもなくただ、映画を見ていた。もちろん特別な事件なんかないまま、終わる。なのに、見終えたとき、なんともなく、満たされた気分になった。不思議な感動がそこにはある。
この夏見た映画でこのブログで紹介していない作品は多々ある。ちょっと時間が出来たから、その一端をここに少し、書いてみよう。
まずは石井克人。彼が若い映画人と共に作った『ハロー純一』は楽しい。子供たちが生き生きしている、なんていう常套句を使いたくはないけど、使おうかな。まるでドキュメンタリーのようだ、なんて言わないよ。結構作為的です。でも、それが楽しいのだからいいや。こういう小さな映画をフットワークも軽やかに作るのが彼の素敵なところだ。満島ひかりがまた、楽しそうに嘘みたいな先生を演じている。リアリティなんかどこ吹く風。それはないよ、というような自由な女子大生先生。教育実習で小学校にやってきたのだけど、これはないよ、というような自由奔放。子供たちもあきれるほど。でも、なんだか楽しそう。主人公の純一のキャラがいいなぁ。ありえないほど朴訥。こんな子、今時いますか? 彼が友だちのためにバンドを組んで、彼のお母さんの誕生日に歌をプレゼントするという話。
ホン・サンスの『ソニはご機嫌ななめ』も確かに今回も面白かったけど、さすがにもうこのパターンには飽きてきた。ホン・サンスを最初に見たときの驚きはもうない。だって、ここまでいつも同じではさすがに飽きる。ありえないような何もなさ。それが衝撃的だった。もう10本くらいは見たけど、僕はもういいや、と思う。
インドネシアのギャレス・エヴァンズの『ザ・レイド GOKUDO』は前作の直後のお話。まさに続編。でも、映画としては前作のような緊張感も興奮もない。せっかく日本から錚々たるメンバーを呼んできてヤクザをさせているのに、彼らが活躍するシーンはないまま終わるのにはがっかり。松田龍平、北村一輝、遠藤憲一である。完結編に向けての繋ぎなのか、と勘繰りたくなるような中途半端な映画。
そのほかいくつかの韓国映画も見た。いずれもそれなりには面白かったけど、ぜひ書きたいと思わせるほどではない。キム・ビョンウ『テロライブ』とノ・ジョンボム『泣く男』の2本。期待通りだけど、それ以上のものはない。前者はアイデアが秀逸でドキドキさせてくれる。後者は『レオン』タイプの映画でチャン・ドンゴンがかっこいい。ハードなアクションは見せ場たっぷり。だが、そこまで。
パトリス・ル・コントの新作『暮れ逢い』はなんともまぁ古風なメロドラマ。今、こういう映画を作る意味がどこにあるのか、さっぱりわからない。映画自体はつまらないわけではないけど、何ら発見はない。どうしてこんな映画を彼ほどの人が作るのか。頼まれ仕事にしても、なんだかなぁ、である。
『ドライブイン蒲生』は、撮影監督の田村正毅が「たむらまさき」名義で監督した作品。このなんともいいようのないやるせなさ。どうしようもないダメダメおやじの永瀬正敏が生彩を放つ。圧倒的にダメ。そんなオヤジのもとで暮らしてきた姉と弟のお話。(黒川芽衣と染谷将太)つまらないわけではないけど、これもなんだか物足りない映画で見終えた後、だるいなぁ、と思うばかり。本来あるはずのその先のものが、ない。
この夏、ツタヤでレンタルして見たいくつもの映画は、それぞれ期待して見たわけだし、それぞれそこそこには面白いのだけど、なんかインパクトに欠ける作品ばかりで、実は少しがっかりなのだ。単独でこの作品のことを書きたいと思わせるものはない。だから、こういう形で取り上げた。残念。