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いやぁ、こんな小説があるんですなぁ。僕とほぼ同じ年の女性が主人公で、同じように定年退職して、再就職を探している。いろいろ心当たりのあるようなことも描かれるので、興味津々で読み始めた。僕は彼女と違い今は働く気はないけど、急に社会とのつながりがなくなるのは、怖いと思った。しかも、コロナのせいで自由が利かなかったし。定年の後、再雇用で1年働いて、61歳で辞めたけどなかなか「働かない生活」には慣れなかった。一応専業主夫である。それもなかなか大変だと思った。でも、1年経ち、ようやく今では自分のスタイルで毎日が楽しく送れている。今は収入はないけど、働かなくてもなんとか生きられる。
この小説の主人公は勢いで仕事を辞めて、すぐ再就職をしようとする。なんだかエネルギッシュで、すごいな、と思う。僕なんか疲れ果ててしまったし、ハローワークにも通ったけど、僕に出来そうな仕事は一切なかった。愕然とした。働くより、遊んでいたい。だから、今は貯金がなくなるまで地道に遊んで暮らそうと思っている。
高校1年生の孫が家出してきて、しばらく同居することになる。60歳で15歳の孫って、と思うだろうが、彼女は娘の養女で、今回の家出で初めて会った。要するに関心がなかったのだ。不妊治療していた娘はある日諦めて養子を迎えることにした。娘は生まれたばかりの子供ではなく10代の子供を迎えた。母と娘の問題や、孫との関係やら、そんなのんなのいろんな事情がお話の中では描かれてあるけど、面倒なのでここには書かない。そんなのはこの本を読めばわかるし。でも、掘り下げれば面白い要素がてんこ盛りの小説なのだ。それが軽いタッチで描かれていく。
読んでいて、そこそこには楽しめる。60代からの生きがい探しをテーマにして明るく楽しい小説としてうまく書かれてある。元気の出る小説だ、と言ってもよかろう。堀川 アサコの小説はこれまでも何度か読んでいたし、自分とはほぼ同世代で、描いていることも内容も共感できる。デビュー作『幻想郵便局』や『オリンピックがやってきた 猫とカラーテレビと卵焼き』も悪くはなかった。ただ、少し描き方が甘すぎるのが惜しい。もう少しでいいから、取り上げた題材の核心に迫るような描写が欲しい。今回だって、いろいろ痛い部分が散見する。さらりと流すにはちょっとなぁ、と思う。でも、そこでそれ以上には突っ込まないのだ。正直言うとこんなにも簡単に再就職は出来ないのではないか、とか、孫や娘との連帯や和解も都合よすぎる。現実は厳しい。だけど、そこはそことして、こういうふうにいけばいいいね、というレベルで終わらせてくれる。ほのぼのして気持ちはいいのだけれど。