短編連作2本立。それぞれは独立した作品なのだが、互いにリンクし、まるで2本で、1本の長編作品のような作品世界を提示する。2本とも屋上を舞台にした男女の物語という共通項はある。しかし、そんなこと以上に演出の森本洋史さんの見せる歪な世界観のようなものが、全編を覆い、それが共通して底辺に流れているから、そんな風に思うのかも知れない。
強烈な個性が何をやっても彼でしかないという状態を形成する。そんな彼がいつか長編作品に挑戦したならいったいどんな世界を見せてくれるのだろうか、楽しみだ。まだ先のことだろうが、そんな日を、首を長くして待とう。
彼の[天然]とでも言うべき個性は無意識なものなのだろうか。昨年のヨヴメガネ『くもい町』の時も驚かされたが、本人とお話させて貰うと、ますますその混沌とした無自覚の世界の虜にさせられた。理屈ではなく、感覚だけで芝居を作っているような印象を観客に与える。それを本人は恥ずかしそうに見せる。自分自身のもどかしさすら魅力に変える。解らないものを解らないまま形にして見せる。その茫洋とした取りとめのない世界が僕らを不安にする。
今回はドラック(『フランク・ザッパを聴きながら』)とボクシング(『ゴング』)をテーマにしている。
3人の幼なじみ、コースケとサヤカ、ヨーコ。彼らは昔から、いつもこの屋上で遊んでいた。大人になった今でも彼らは何かあれば、ここにくる。何もなくともここにくる。コースケはドラッグのやりすぎで意識が混濁している。彼は今ヨーコと付き合っているが、自分の友だちをサヤカに紹介してあげる。だが、彼の中でいつの間にか2人の女の境界線がなくなっていく。この秘密の屋上は彼らにとっては特別な場所だ。この開かれた空間は彼らの隠れ里でもある。空に向かい広がる場所が彼らの隠れ家となる。その神聖な空間で彼は壊れていく。
2人のボクサーの間で揺れる女、透子。2人はこれから試合をする。彼女は吉井の恋人であり、小島の友だちでもある。この同じ場所での2人による会話が2つ綴られる。透子と吉井。透子と小島。吉井は既に峠を越えたボクサー。もし、次の試合で負けたなら引退する覚悟だ。小島は次の防衛戦の相手に吉井を指名した。小島が語る死んでしまった妹の話。死ぬ前に一度でいいからセックスがしたい、という彼女の願いを兄は叶えるため、小島は妹をこの屋上で抱いた。そんな誰にも話せない話をなぜここで透子に話したのか。妹は病院の窓からこの屋上でセックスをする男女を見たらしい。透子はそれが、自分と吉井だと気付く。
2つの三角関係を描くドラマはリバーシブルになっている。どちらが裏でどちらが表であってもいい。ただ、物事には表裏があり、そんな中で人は生きている。男と女はお互いに意識しあっている。だけれども彼らは友だちと恋人との距離感をしっかり保つ。だが、気付くとその境界線は曖昧なものになっていく。
緻密に作られた台本と演出によってこの作品が作られたのならば、それはそれで面白いものになったはずだが、しかし、これはそうはならない。そうはならないことで、これは緻密さ以上の摑みどころのなさを見せる。森本さんと、台本を書いた松本雄貴さんの作る解ろうとさせない未分化の世界はなんだか途轍もなく不気味で捉えどころがない。そこがなんだか魅力的だ。
強烈な個性が何をやっても彼でしかないという状態を形成する。そんな彼がいつか長編作品に挑戦したならいったいどんな世界を見せてくれるのだろうか、楽しみだ。まだ先のことだろうが、そんな日を、首を長くして待とう。
彼の[天然]とでも言うべき個性は無意識なものなのだろうか。昨年のヨヴメガネ『くもい町』の時も驚かされたが、本人とお話させて貰うと、ますますその混沌とした無自覚の世界の虜にさせられた。理屈ではなく、感覚だけで芝居を作っているような印象を観客に与える。それを本人は恥ずかしそうに見せる。自分自身のもどかしさすら魅力に変える。解らないものを解らないまま形にして見せる。その茫洋とした取りとめのない世界が僕らを不安にする。
今回はドラック(『フランク・ザッパを聴きながら』)とボクシング(『ゴング』)をテーマにしている。
3人の幼なじみ、コースケとサヤカ、ヨーコ。彼らは昔から、いつもこの屋上で遊んでいた。大人になった今でも彼らは何かあれば、ここにくる。何もなくともここにくる。コースケはドラッグのやりすぎで意識が混濁している。彼は今ヨーコと付き合っているが、自分の友だちをサヤカに紹介してあげる。だが、彼の中でいつの間にか2人の女の境界線がなくなっていく。この秘密の屋上は彼らにとっては特別な場所だ。この開かれた空間は彼らの隠れ里でもある。空に向かい広がる場所が彼らの隠れ家となる。その神聖な空間で彼は壊れていく。
2人のボクサーの間で揺れる女、透子。2人はこれから試合をする。彼女は吉井の恋人であり、小島の友だちでもある。この同じ場所での2人による会話が2つ綴られる。透子と吉井。透子と小島。吉井は既に峠を越えたボクサー。もし、次の試合で負けたなら引退する覚悟だ。小島は次の防衛戦の相手に吉井を指名した。小島が語る死んでしまった妹の話。死ぬ前に一度でいいからセックスがしたい、という彼女の願いを兄は叶えるため、小島は妹をこの屋上で抱いた。そんな誰にも話せない話をなぜここで透子に話したのか。妹は病院の窓からこの屋上でセックスをする男女を見たらしい。透子はそれが、自分と吉井だと気付く。
2つの三角関係を描くドラマはリバーシブルになっている。どちらが裏でどちらが表であってもいい。ただ、物事には表裏があり、そんな中で人は生きている。男と女はお互いに意識しあっている。だけれども彼らは友だちと恋人との距離感をしっかり保つ。だが、気付くとその境界線は曖昧なものになっていく。
緻密に作られた台本と演出によってこの作品が作られたのならば、それはそれで面白いものになったはずだが、しかし、これはそうはならない。そうはならないことで、これは緻密さ以上の摑みどころのなさを見せる。森本さんと、台本を書いた松本雄貴さんの作る解ろうとさせない未分化の世界はなんだか途轍もなく不気味で捉えどころがない。そこがなんだか魅力的だ。