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映画・演劇のレビュー

『でーれーガールズ』

2015-03-04 20:59:51 | 映画
30年の歳月は重い。1980年、岡山。東京から転校してきた少女。15歳。高校1年の入学式。山口百恵が引退する年。たったひとりで路面電車に乗り、学校に向かう朝。映画はそこから始まる。そして、30年後。再びあの町に戻る。母校の創立記念日に講演をするために招かれた。彼女は今では売れっ子の少女マンガ家になっている。そこで16歳の冬、別れたクラスメートと再会する。

30年を経て、出逢うふたりの女の子。高校1年の時間。春から冬まで。1年にも満たない時間。45歳になった今、たった3日間の時間。ふたつの時間が交錯する。

それにしても30年。それだけの時間があれば何でもできる。しかし、無為に過ごす30年は一瞬の出来事だ。だから永遠と一瞬は等価にもなる。2人の少女が出逢い、別れていく。30年後、同じ場所で再会する。そして、過ごすほんの数日間。その後には永遠の別れが待っている。

儚い友情の物語がとても丁寧に綴られていく。大切な時はあっという間に過ぎていき、もう二度と戻ってこない。15歳の春、希望と不安に胸ふくらませて、高校の門をくぐった日。最高の友だちと過ごした時間。心を通じ合わせた日々。しかし、一瞬のすれ違いが2人を分かつ。すべてを棄てて百恵ちゃんは友和の妻なる。そんなまぶしい姿をリアルタイムで目に焼き付ける15歳の少女。彼女はマンガが大好きで、自分と夢の恋人との恋愛をマンガにしてノートに描いていた。そのノートを通してふたりの少女は心を通い合わせる。やがて、彼女は夢と現実の間で心が揺れていくことになる。そしてそこに友情も絡んでくる。

まるで少女マンガのような世界を描く原田マハの自伝的小説(たぶん)の映画化である。原作の表紙はイラストで、ちょっと大人の男が手にするには腰が引けるのだが、それでも、えい、やぁ、と手にして読んだ時、この作品に魅了された。ふつうのジュニア小説のふりをして、でも、これはまぎれもない傑作だった。

それだけに、これが安易な映画化なら嫌だな、と思ったが、そんな心配は杞憂に終わる。丁寧な映画化は原作の精神をきちんと体現した。大九明子監督は少女たちのそれぞれの気持ちをとてもリアルに描いて見せた。こんな映画は今までありそうでなかった。ここまでベタな話なのに、こんなにもリアルなのは、子供の夢と現実をしっかり汲みとって映像化したからだ。

15歳だった自分に伝えたいことがある。45歳になってもそれは変わることはない。今の私が、あの日の私に伝えるこのメッセージは、観客の胸にもちゃんと届く。

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