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これは100パーセントの純愛小説である。それだけで充分だ。いらぬ先入観は持たない方がいい。何も知らないまま、読んでみればいい。まず、読んで欲しい。それからなら、この僕の感想を読んでもいい。これは素晴らしい小説である。
求めよ、さらば与えられん。果たしてそうか? 世の中そんな簡単なものではない。求めても叶わないことばかりだ。もちろん聖書の意味はそういうことではない。だけど、僕たちはそういうふうに自分に都合のいいよう解釈したい。
狂おしく求める。でも、叶わない、と諦めていた。なのに、どうしてそんな夢が叶ったのか。信じられないまま、10年の歳月が流れた。
でも、今、彼女の夢はかなわない。子供が授からないこと。不妊治療を続けているが、上手くいかない。それは自分のせいではないか、と夫は思う。そんな優しすぎる夫に甘えていた。でも、夫は彼女のためならすべてを棄ててもいいとずっと思い続けている。自分のような何の取り柄もないような男を彼女が好きになるはずはないと思ってきた。嘘みたいな話だが惚れ薬を彼女に飲ませたから、彼女が自分のことを好きになってくれたと信じた。そんな非科学的なことがあるわけもない。だけど、その薬を飲んだ直後からふたりの交際が始まったのだし、しかも彼女の方から交際を求めてきたのだ。それってありえない。美しくて、頭もよく、誰もが好きになるような理想の女性が、自分のような暗くて、無口で、つまらない男を好きになるはずもないから。
第1章は、彼女の側からお話が始まる。結婚して7年。34歳。不妊治療の話だ。お互い何の問題もないのに、妊娠が叶わない。ふたりの関係がぎくしゃくしてくる。彼はひたすら優しい。なのに、ある日、離婚届を置いて彼が消えてしまう。
次の第2章は彼の側からのお話だ。過去に遡る。彼女との出会いから、彼女をどれだけ深く想っていたかが綴られていく。ストーカーすれすれだ、と本人は自覚している。だから、そうならないように自制している。そんな彼の想いが切々と綴られていく。
3章では再び、彼女の話に戻る。彼の失踪から7か月。音沙汰はない。彼女は憔悴している。誰にも夫の失踪のことをうち開けられなかったが、仲のいい友人2人との会食時に、自分たち夫婦のことを打ち明ける。やがて2人の協力で彼の居場所を探し出し、会いに行くことになる。何が原因だったのか。お互いの想いを伝えあう。
こんなことがあるか、と言われるとお互いにそうだったように、信じ難い。でも、あり得た奇跡に感謝しよう。彼女は理想の男性を得た。もちろん、彼もそうだ。だけど、彼は、みんなもそう思うように、自分でも彼女を信じ切れなかった。彼女のような素敵で夢にような女性が自分なんかと付き合ってくれ、結婚してくれるなんて、と。付き合いだして5年、結婚して7年経つのに、これは現実ではないと思い続ける。だから、子供が出来ないことを罰だと思い始める。
ミステリータッチの小説で、読みながらこの先どうなるのかドキドキした。しかも、帯に「完璧な夫だった彼は、私を、愛してはいなかった。」なんていう宣伝コピーが付いていて悲惨なこの先が想像される。あれのせいで変な先入観を抱いてしまったのが、腹立たしい。このコピーはミスリードを誘うからよくない。だいたいこれはそんな小説ではない。夫は200パーセント彼女を愛していた。愛しすぎて、逃げだしたのだ。
もう一度言う。これは100パーセントの純愛小説である。それだけで充分だ。誰かを好きになり、大切にしたいと思う。変わることなく、ずっと一緒にいたい。そんな気持ちを持ち続ける。求めよ、さらば与えられん。