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映画・演劇のレビュー

万博設計『苔生す箱舟』

2015-12-17 19:22:05 | 演劇

なんだかわからないけど、ドキドキする。芝居だからこそ味わえる快感に浸る。理屈で見るのではなく、感覚的に受け止める。ザワザワする。舞台から目が離せない。この緊張感が好きだったのだ。アングラ演劇の流れを汲む橋本匡市の最新作は、そんな不穏な空気を体現する。タイトルからしてそれらしいではないか。「箱舟」の話で、それが「苔生す」。まさにそのままの芝居だ。

壊れていく家族の話。いや、もう壊れている。3人兄弟。母もいないし、父もいない。そこに3人姉妹がやってくる。彼女たちは彼らと同じように両親はいない。しかも、住む家もない。彼女たちは、彼ら兄弟の家のもう誰も住まなくなった離れに無断で住みついた。空家になっていたここには以前浮浪者が住みつき、死んでいたことがある。それからは気味悪がって誰も足を踏み入れなかった。彼女たちが来たことで、男たちは再びここにやってくることになる。

東京オリンピックがもうすぐやってくることで、村は浮足立っている。長男は聖火ランナーに選ばれた。そこからお話は始まる。2組の3人が、この幻のような場所にやってきて、家族ごっこのような時間を過ごす。しかし、そこには明確なストーリーはない。3人の置かれた状況。海に流されたガラス瓶に入れられた三男の手紙。それを回収する二女。想いは外の世界には通じない。閉じられたまま、という図式。

1964年から2020年へ。50年以上前のオリンピックの記憶。やがてやってくる新しいオリンピック(もうやってきた?)の記憶が重なる。この国がどんなふうにして変わったのか。今という時間を描きながら、そこに50年以上の間にこの国に流れた歳月を投影する。そしてこの先の未来すら照射する。

家を棄ててバラバラになる3兄弟のもとへ、家を持たないひと固まりの3姉妹がやってきて、織りなす家と歴史を巡る物語は、わかりやすいストーリーを持たない。しかし、そのわけのわからない話に引きこまれていく。ドキドキしながら舞台を見守る。

やがて怒濤のクライマックス。それまでの緩やかなドラマとは打って変わって、まくしたてるようなイメージのつるべ打ち。その荒波をこの箱舟は乗り切れるのか。来年1月の東京公演で目撃して欲しい。




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