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映画・演劇のレビュー

『アンダードッグ』

2023-12-15 11:17:00 | 映画

ようやく『アンダードッグ』を見ることができた。2020年の劇場公開時は長いし、上映回数は少なく見に行けなかったからNetflix配信は有難い。前後編4時間36分を一気に見た。前編2時間11分だけでも堪能したけど、やはりその先は気になる。この後どういう展開になるのか、が。

前編は森山未來と勝地涼の対決をクライマックスにした以上、後編のクライマックスは北村匠との対決になることは必定のことだが、そこに向けてどういう舞台を与えるのか。

もちろんこれはただのボクシング映画ではない。ボクシングで勝つことが大事なのではない。世界チャンピオンになることは夢だが、その夢をかなえるまでの話なんかではない。だいたい世界チャンピオンになれるボクサーなんて何人もいない。

タイトルはアンダードッグなのだ。負け犬の話である。挫折を乗り越えて栄光を手にするなんてことにはなるはずもない。森山未來は元日本チャンピオンだった。素晴らしいボクサーだった。しかし今はただの噛ませ犬。いつまでもボクシングにしがみついている。諦めないのではない。もう十分諦めている。だけど、やめられない。確かにボクシングが好きだし、まだ夢を追いかけている。

そんな彼がふたりの男と出会う。彼らもボクシングをする。ひとりは売れない芸人。もうひとりは昔施設で出会った青年。ボクシングをやめようとしている男がボクシングを始めた男たちと出会い戦うことになる。

これは単純なサクセスストーリーとは違う。ずっと彼は俯いたまま。試合で勝つこともない。もうやめろ、とみんなから言われる。無様な姿を晒してリングに出るのは惨めでしかない。だけど彼は辞めることができない。幼い息子は彼が世界チャンピオンになると信じているから、か。そうじゃない。いや、そうかもしれない。彼自身がそんな夢をまだ信じていたいのかもしれない。

前編の勝地涼がとてもよかった。惨めなピン芸人が、バラエティ番組でボクシングに挑戦する。笑いを取るためだったが、本気なっていく。勝てるわけはないけど、死ぬ気で森山未來に挑む。そして燃え尽きる。この映画には敗者しかいないけど、彼らは彼らなりに必死になっている。だけど報われない。現実はドラマや映画ではないからだ。そんなことをこの映画が(映画なのに)描く。

後編は前編ほどには熱くなれない。少しお話がパターンになっていくからだ。北村匠との因縁や彼が視力を失い選手生命を絶たれることとか、いささかドラマチックな展開が盛りだくさんになり、映画らしい展開になるからだ。

ただ森山未來は最後まで俯いたまま終わるのはいい。明るい希望なんてないけど、ボクシングを捨てられない。そんなリアルが身に沁みる。いじましいけど、その心情はわかる。ランニングしている彼の後ろ姿を延々と見せて終わるのもいい。



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