まるで劇中で描かれる3コマの授業を受けたような気分にさせられる芝居。さらには、ラストのまるで打ち切るようなエンディングも見事。人生は続いていく。そんな日々のなかの1コマのように、芝居は終わる。普通の芝居なら「ここで終わるよ、」というサインを出し、作品をまとめようとするところだ。でも、作、演出の高橋恵はそんなおきまりにパターンには見向きもしない。もちろん、いきなりで、尻切れトンボの終わり方ではない。鮮やかな手つきで終わらせる。確かにここで終わるのは正しい、と思わせるのだ。でも、まだ心の準備が出来ていなかった僕たち観客は一瞬、戸惑う。その不意打ちのようなところが素晴らしい。
芝居はボイストレーニングの授業の3コマを切り取っただけ、というさりげなさ。授業の前後の部分もあるが、ことさらそこにドラマを盛り込もうとはしない。さらりと見せて、そんなことよりもできるだけ丁寧に授業の中身自体を見せようとする。この講座を受講している4人の生徒と、今日からやってきた先生。その日は10週連続で行われる講座の6回目なのだが、前任者が突然来られなくなったので、ピンチヒッターとして彼女が今日から残り5回の授業を受け持つことになった。講師である彼女はフリーのアナウンサーをしている。
芝居はその6回目の授業から8回目までのドキュメント。生徒たちはまちまち。いろんな人たちがいる。彼らも10回の授業でうまくしゃべれるようになるとは、思っていないけど、今よりなんとかなったならいいなぁ、とは思って参加している。
これは先生のお話ではないし、受講者のお話でもない。講師の先生による授業そのもののお話なのだ。それだけのことを、ここまで思い切った作り方で見せる芝居なんて見たことがない。この大胆さは高橋恵さんの自信のなせる技だろう。中途半端をしたなら、ありきたりな芝居になるところを、徹底させたため、見たことのない芝居になった。
登場人物、それぞれの抱える事情が描かれないわけではない。だが、それは授業を通して見えてくる、というレベルに止まり、そこからお話が展開するわけではない。(だから、講師である姉とここの職員である妹との母親を巡る確執も、あくまでも背景でしかない。)
作品自体はとても静かで、落ち着いたもの。感情の起伏も、突出することなく、あるレベルでとどめられている。そのそっけなさが心地よい。(少し、心配になるほどに!)芝居なのに、こんなにもあっさりと見せていいの、と思うほど。大袈裟な、ケレンみたいなのって、いらないけど、でも、あまりのさりげなさ。もちろん、それがいい。
早川丈二がとてもイヤなやつをさりげなく演じていてアクセントになっている。こんな奴ってどこにでもいる。本人には、まるで悪気はなく、実は「いい人」だったり、もするけど、無神経。そんなキャラクターを絶妙に演じていて、いい。