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映画・演劇のレビュー

『インセプション』

2010-07-29 22:11:48 | 映画
 この映画がつまらなかったことに衝撃を受けた。クリストファー・ノーランの『メメント』を見たときと同じくらいにショックだった。というか、この作品もノーラン監督作品である。

 期待が大きすぎた、ということもあったかもしれない。アイディアの凄さに映画がついていけない。2本ともそのストーリーの斬新さ、映像のすばらしさに圧倒され、作品自体がそこを越えられない。企画倒れになっているというという意味でこれらは共通している。

 ノーランは商業映画の頼まれ仕事である『バットマン ビギンズ』やその続編である『ダークナイト』の方が身の丈にあったいい仕事をしている。それに対して、自分のやりたいことを十二分に表現できる『メメント』や本作では、あまりにとんがってしまいすぎて、観客に自分の中で溢れ出る想いが伝わりきらない。そんなもどかしさを感じた。

 ここで描かれる怒濤のような展開と、驚異のビジュアルは、これが夢の世界であるという事実の前では、何でもありのとりとめのないものにしか映らない。どれほど凄い映像を作ろうとも、それは現実の夢と比較すれば、色褪せたものにしかならないのだ。夢はその人の心の反映だ。だから、その人にとっては自分の夢は何ものにも代え難いリアルであり、その圧倒的な説得力はすべてを凌駕する。しかし、それは本人のみに有効なものであり、他人に見せても何の興味もひかない陳腐なものにしかならない。

 この映画のつまらなさは、これはノーランにとっては凄いビジュアルであっても、個人個人の脳内で作られた夢には及ばない、というどうしようもない事実を乗り越えられなかったからだ。

 人の夢の中に入っていっても、それはその人の興味ある世界でしかなく、万人に共通するものはそこにはない。その事実を抜きにして、夢の世界の凄さをいくら見せても、どんな凄い映像もだんだん飽きてくるだけだ。こんなにも頑張っているのに残念だけど、その事実は変えられない。
 
人の夢の中の世界で他人が彷徨することから見えてくるもの、それがどこにたどりつくのか。この映画のさらなる先にある地点が見たかった。ディカプリオは前作である『シャッターアイランド』とよく似たキャラクターで、わるくはないがなんだか変化もない。これでは前作と区別がつかない。


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