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映画・演劇のレビュー

藤つかさ『まだ終わらないで、文化祭』

2024-03-07 08:50:00 | その他

まだ30歳、大阪出身の若い作家の初長編作品。彼は第42回小説推理新人賞を受けてデビューし受賞作『その意図は見えなくて』を含む短編集を上梓。これが2冊目の本になる。

 
高校の文化祭を舞台にした青春小説みたいなので読むことにした。僕は基本推理小説は読まない。これも幾分推理小説みたいなタッチだが、作者の自伝的なドラマが根底にはあるのだろう。誰もが自分だけの高校生活を送っている。そこにはそれぞれのドラマがある。高校生活の中でのハイライトである文化祭を舞台にした思い出をベースにしたフィクションとしての小説ってそれなりに興味深い。という事で読んでみた。
 
文化祭の2日間。5人の語り部の視点から描かれる群像劇。ミステリー的な展開を秘めながら何も起こらない2日を追う。主人公の市ヶ谷のぞみは無事文化祭は終わり、文化祭企画委員の仕事を全うするが、なんだか、寂しい。祭りの後の孤独。誰もが心当たりのある気分だろう。2年前のポスターの謎は解けるけど、だが、まだ文化祭は終わらない。
 
最後の後夜祭で密かに期待していたハプニングが起きる。誰が仕込んだかが、お話の結末である。どんでん返しというほどではないけどちゃんとお話には仕掛けはなされてある。ただ、全体のバランスがよくない。最初にも書いたが、高校生活最後の文化祭への想い(1年にとっては初めての文化祭への期待)というある種の普遍が描ききれていない。ミステリー的な展開とのバランスが取れていない。
 
誰もが心に秘めているあの頃の感慨。それをまず描ききれないことにはこの小説は成功しない。

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