山田詠美のエッセイ集。これは2000年代に各紙誌で発表されたエッセイ、文庫解説、芥川賞選評を一冊にした本。あらゆるジャンルをタイプ別に網羅している大部な一冊。
最初はウォーミングアップも兼ねた膨大な量の短いエッセイの集大成。新聞に載っていた短文を一気に読む。楽しい。そこからは確かに山田詠美って人、その人柄さえもがしっかりと伝わってくる、気がする。彼女の書く文章は彼女その人。次に亡くなられた方たちへの追悼文だけど、水上勉から始まって、最後はなんと父母に至る。
さらには芥川賞の選評を並べたところ。これは圧巻。129回から今年9月の171回までの怒濤の選評である。読みながら「あれってこんな小説だっけっけ、」と思うことも。短い文章で一刀両断する。ここまで書いていいのか、と心配なるほど歯に衣着せぬ短評の嵐。
400ページを越えるこの山田詠美の雑文エッセイのあまりの軽さに眩暈がする。文庫の解説を収録した部分もそうだ。解説というポジションにも関わらず作品解題ではなく、作家の裏話に見せて実はしっかり作品の本質に迫る見事な解説にもなっている。まるごと山田詠美って感じの一冊だった。
終盤にある『道草の原点』を読んだ時、なんだか泣きそうになる。小学生の頃の思い出の地、静岡県磐田市に足を踏み入れるお話である。
どうでもいい話だが、僕は彼女と同い年で(川上弘美も)同じ時代を生きている。幼い頃の昭和30年代後半から40年代初めの頃の日本の光景が目に焼き付いている。あそこから人生が始まっている。もちろんまるでふたりは(まるで知り合いか、恋人みたいな言い回しだなぁ)違う生き方をしているけど、そんな同時代感覚がきっと根底にはある、のかもしれない。
これも余談だが、来年の1月の2年生の授業は彼女の『晩年の子供』から始まる。『ひよこの眼』を取り上げる。(まぁいつものことで「たまたま」そうなっただけではあるが)今の17歳たちはあれをどう受け止めてくれるのか、楽しみである。