原発を人質にとって(原子力発電所は人ではないけど)テロを行うクライマックスから一転して、たった一人の少年が、年上の恋人と過ごす夜の時間まで、とても静かで寂しいこの小説を読みながら胸がいっぱいになる。人間って何なのだろうか、と改めて思う。
2045年、北関東の小さな町に核処分場が作られることになる。戦後100年を迎える日本は、再び戦争に突入していく。そんな時代が背景だ。戦争のことを「積極的平和維持活動」と呼ばせ、政府は中東に兵士を派遣する。国のために人殺しをさせられる。
主人公の少年を中心にして(いや、彼は主人公という中心ではなく、たまたまそこにいただけだ)その周囲の人たちの、それぞれの想いや行為が綴られていく。大きなストーリーは戦争と核廃棄物の処理を巡る物語かもしれないが、ダイナミズムとは遠く離れて、ひっそりと生きる市井の人たちの群像劇を通して、この世界がどこにむかっていくのかを予見する。凄い傑作。