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映画・演劇のレビュー

『二流小説家 シリアリスト』

2013-06-25 22:41:16 | 映画
 思いがけない映画に出会うと、なんだか得した気分になる。正直言うとまるで期待していなかった。海外ミステリーの翻案映画化は、設定の変更がうまくいかなければ、つまらなくなる。しかも、うまくいっても、それが作品の本質ではない。どうしても嘘臭くなる場合が多い。よく出来ている小説である場合には余計にそうなる。リアリティーが損なわれるのだ。

 この小説もかなり嘘臭い。だが、お話の面白さと、役者たちの熱演から、緊張感のある空間を作ることに成功している。主人公の売れない作家を演じた上川隆也がいい。だが、それ以上に凄いのは武田真治だ。監獄の中の死刑囚。連続猟奇殺人犯。まるで『羊たちの沈黙』ではないか。エキセントリックにこの頭のいい変質者を演じる彼は嬉々としている。こんなふうに演じられると、嘘臭いこの話に反対にリアリティーを与えるほどだ。上川との対比もパターンだが実にいい。こうして映画はこの2人の対決のドラマとして見ていくと、とてもスリリングで面白いものとなる。周囲の人物が嘘臭いままなのが、少し残念だが、世界はこの2人だけで完結している、そう思うと、目を瞑れる。

 獄中の犯人が再び事件を起こす。でも、そんなことはあり得ない。では、誰が真犯人なのか。12年前の事件の真相はどこにあるのか。果たして彼は犯人なのか。そんなこんなのお話の仕掛けは実に面白いから、ストーリーだけでも十分ドキドキさせられるのだ。

 でも、周囲のキャストがいまいち。高橋恵子の弁護士も、片瀬那奈の被害者の妹も、伊武雅刀の刑事も、みんないわくありげで嘘っぽい。ちょっとやりすぎ。上川の片腕になる女子高生を『極道の妻たちNEO』に出ていた女の子が演じているのも、安っぽい。(彼女を東映は売り出すつもりなのか?)

 『砂の器』を思わせる母と子の巡礼の旅(ではないけど)のシーンは、けっこう笑える。こういう描写が浮ついたものにしかならないところが、つらい。細部の描写に説得力がないから、少ししらける。緊迫しない。謎解きもそうくるか、という程度。

 だが、最初にも書いたけど、主人公2人がとてもいいから、それでも面白いのだ。見ていて損をしたとは思わない。猪崎宣昭監督は、昔『ジェームス山の李蘭』という映画を撮った人で、あの作品から21年振りの第2作がこの作品になるのだそうだ。僕はあの映画を劇場で見ている。とても端正な作品だった気がする。悪くはなかった。そして今回もとても満足した。

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