これは現在のところ中田秀夫の最新作で、彼がデビュー作『女優霊』の姉妹編とでも呼ぶべき作品に挑んだ期待作だった。昨年劇場公開時に見に行くつもりだったけど、すぐに劇場から姿を消したので見逃していた。DVDになったので、楽しみにして見たのだが、始まって5分くらいで「これはダメだ、」と思う。でも、絶対このままで終わるわけはないと信じて最後まで見た。途中からは消化試合に気分だったけど、仕方なく見た。
どうしてこんなことになったのか。最近の中田秀夫は生彩を欠いていたけど、それだけに、この素材に今再び挑むのなら、必ず彼にしか出来ない新機軸を提示するはず、と信じたファンを見事に裏切る。本人だってこんなはずじゃなかっただろう。人がダメになるのは簡単だ。モチベーションの上がらない仕事を嫌々していたなら、そうなる。でも、この企画が彼にとってそんなものだったとは思えなし、そうは思いたくない。
初心に戻って、最恐のホラーを作ってくれると思った。『クロユリ団地』では確かにその気配を示せたのだ。せめて、あれ以上のものを作るはず、と思ったのに。
なぜ、こんなことになったのだろうか。主演女優に力がなかった、なんて言わさない。そんなことはわかった上で引き受けたはずだ。(そこで勝算がないなら、辞めるべきだった。)
台本のダメさ、というのなら、自分で書け。人形の出来がいまいち、とか、そんなのは言い訳にはならない。技術スタッフは信頼していい。見せ方、描き方であろうから、すべては演出、で、だから自分のせいだ。
今回は「劇場」が主人公だ。『女優霊』の「撮影所」と同じように。だが、彼は撮影所とは勝手が違う劇場という空間にリアリティを与えることが出来なかった。「映画」ではなく「商業演劇」という舞台を生かせないし、劇場というものをリアリティのない使い方しかできなかった。そこがまず一番に失敗理由だ。副主人公として平田満を持ってきたにもかかわらず、彼の演じるスター演出家の存在がこんなにも嘘くさい。舞台出身である平田満はこんなバカな台本に納得したのか。もっと、ちゃんとした本へのダメだしをすべきだった。日本で劇所自体を抑えて、興行するということはありえるのだろうか。そのへんもなんだか説得力がない。
さらには、お話のポイントとなるスター女優の降板から、代役の立て方までの流れがもっと嘘くさいから、もうそれだけでこの映画は信じられないものとなる。小劇場演劇ではないのだから、こんな安易な代役は立てられないはず。しかも、劇場で死者が出ているのに、興行が中止にならない。警察は杜撰な捜査。しかも、ポイントとなるはずの人形の怨念とか、いうのも、あまりのありきたりで何も怖くない。
それよりなにより、映画自体がまるで怖くないのが致命的だ。初期の傑作で彼の代表作である『リング』『仄暗い闇の底から』をもう超えられないのか。ならば、もうホラーをするべきではない、なんて、言いたくなる。それくらいに無残な映画だった。