「喜八もの」の最終章。今までも何本か小津の戦前のサイレント映画は見たけど、正直言うと、僕にはあまり面白いとは思えなかった。今回も怖々見始めたのだが、ダメだった。決してつまらないわけではないけど、わざわざ今見る意味は感じない。これを見た後では、今回のDVDボックスに収録されたほかの作品にも、期待できない。『浮草物語』も途中で止めてしまったし。
貧しさをこういう形で見せられることには確かに驚きはある。だが、それはこの映画の力ではない。1935年の作品としては、とか、そういうのは僕にはいい。今、これを見て今の僕にとって意味があるのか、と言われたら、NOとしか言いようがないということなのだ。僕は映画研究者ではないから、勉強のために映画を見たいとは思わない。残念ながら『戸田家の兄妹』以降の小津映画なのだな、と改めて思った。(でも、せっかく買ったのだから、見ていない作品は地道に見よう、とも思う。)
でも、この映画の岡田嘉子はきれいだった。そこは収穫だと言える。それと、荒涼とした風景も圧巻だった。仕事もなく、住む家もなく、食べるものにも事欠く、という生活が特別ではなかった時代。木賃宿に泊まるけど、寝る場所もなく、ただ、座っている。やがては、それすらも叶わなくなる。そんな生活の中でも、恋もするし、(幼い子供を2人抱えて)つかの間の幸せも感じる。だが、どうしようもないことから、警察のお世話になることになる。こういう人情物をドライなタッチで見せていく。確かにこれは悪くはないのだが。