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映画・演劇のレビュー

『君のためなら千回でも』

2008-11-10 21:39:31 | 映画
 こんなにも心に痛い映画はない。ただ優しいだけの映画にはならない。だが、ただ悲しいだけの映画にもならない。子供を主人公にした映画の陥る甘えはここにはない。だがただ厳しい現実を突きつけるようなものでもない。

 ここには痛みと優しさがきちんと同居している。アミールとハッサン。2人の少年たちが生きた時間。それが壊れていくさまが痛々しい。悪いのはアミールではない。だが、彼は自分のせいでハッサンという生涯の友を失くす。自分の弱さと狡さからハッサンは去っていくことになる。そして、彼は失ったものの大きさにうろたえ、生涯その痛みから逃れられない。

 彼が小説家になったのもハッサンがいたからだ。彼らがいつも一緒にいた黄金の日々。映画の前半は2人の時間が穏やかで美しい平和な時代のアフガニスタン、カブールの風景の中で描かれていく。凧揚げのシーンは圧巻である。かなり長いがもっともっと見ていたいと思ったほどだ。だが、素敵な時間は永遠には続かない。

 あんなに素晴らしい友だちはきっと生涯2度と出来ないだろう。映画はただの思い出話ではない。ソ連のアフガン侵攻によって祖国は引き裂かれる。残酷な時代がやってくる。彼はそこから逃れアメリカで平和に暮らす。映画の後半は成人し作家となった彼が、再びアフガンを訪れる旅が描かれる。ハッサンの忘れ形見である少年を助けるために危険な旅に出る。

 『チョコレート』『ネバーランド』のマーク・フォスター監督が魂を込めて描く大作である。ハッサンを演じた少年の汚れのない瞳が忘れられない。こんなにも純粋で痛ましい無垢な顔を見たことがない。可愛いとか無邪気だとかいうのではない。『みつばちのささやき』のアナの瞳と並ぶ。忘れられない顔である。彼に出会うだけでも充分意味がある。そんな映画である。

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