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映画・演劇のレビュー

『歩行する季節』

2010-04-08 22:19:20 | 映画
 これはあの『花の袋』の戸田彬弘のひとつ前の作品だ。『花の袋』を見てしまった以上、彼の旧作を遡らずにはいられない。たとえそれが旧劇団スカイフィッシュの松山賢史の脚本であったとしてもである。(誤解のないように、先に書いておくが、スカイフィッシュは好きな劇団だ。ただ、それが戸田監督と合うかどうかは疑問だ、ということである)

 なんとなく予想は出来たのだが、松山作品らしい観念的なドラマで、あの単純明快は『花の袋』のストーリーラインとはまるで違う。しかも、相変わらずストーリーが独りよがりなため、見ていてイライラさせられる。こういうのを2時間32分も見せられるのは正直言うと苦痛だ。自主映画の悪癖を見事体現する。だが、それでも戸田監督らしさは残る。

 終盤の再生のドラマはこの作品の救いだろう。なんとなく気持ちのいいラストを提示出来ている。だが、それがなんなのかはよくはわからないし、最期まで出逢わない2人の邂逅が単純にカタルシスを呼ぶだけで、そこにはあまり意味は感じない。

 走り続ける男と、周囲から隔離されている少女という設定は面白い。だが、それがなんなのかは説明されない。説明がないからダメだなんて言うつもりは毛頭ない。だが、説明不要のエネルギーが作品全体を覆い尽くすわけではない。これは開かれた作品ではなく自閉しているのだ。観念的なストーリーが作品の力にはならない。予想通りの残念な仕上がりだが、これが傑作『花の袋』につながることは充分想像できる。戸田監督のセンチメンタルが、いい方向に機能した時、その作品は凄い力を持ち得るのだ。

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