習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

吉田篤弘『レインコートを着た犬』

2015-12-16 22:11:19 | その他

月舟町シリーズの完結編。3部作ということだが、僕は番外編である『つむじ風食堂と僕』も含めて4部作だと思いたい。それぞれがまるで独立していて、まったく違う個性を持つ。だから、ぼんやりしていたらこれらがシリーズだなんて気付かないかもしれない。でも、それくらいの緩やかさがいい、と思う。今回は月舟シネマが舞台だ、と聞いていたのに、あまり映画館の話はない。これなら『それからはスープのことばかり考えて暮らした』のほうが月舟シネマのことがたくさん描かれていた。(しかも、あれだけ長編小説スタイルだった。本作も含めて基本短編連作スタイル。)でも、そんなことはどうでもよろしい。

今回の主人公は犬だ。ジャンゴと名付けられた犬の視点から彼の周囲の人たちが描かれていく。犬だからしゃべれない。一人語りとなる。そのへんが少しつまらない。今までは人間が主人公だったから、彼が人々と関り合い、会話を交わすことからお話が動いていく。でも、今回はもどかしい。犬の想いは言葉にならない。本人の中では言葉になっているけど、人間には伝わらないのだ。そんなの当たり前じゃないですか、と言われそうだが、その当たり前のことがこんなのにもどかしい。本人も自覚している。犬はしょうがないなぁ、と思う。

最初は物足りないなぁ、と思いつつ、読んでいたけど、これがこの連作の基本スタイルであることは、最初の『つむじ風食堂の夜』に刻まれた。だからこれはもとに戻っただけ。ジャンゴを取り巻く月舟町の人たちの点描。やがて閉館することになる月舟シネマの最終上映の日までが描かれる。でも、この最終上映プログラムは、終わりの日が決まっていないから、ずっと続くかもしれない。みんなはそうなればいいなぁ、と思っている。それはこの寂れた町のほかのお店もそう。つむじ風食堂も、本屋も、果物屋も。団子屋の銭湯。『3ミリの脱出』の話から始まり、そこで終る。最終上映の映画だ。盛り上がることなく、静かに小説は終わる。『ニューシネマパラダイス』じゃないんだから(あれはあれで悪い映画ではないけど)感動の押し売りにはならない。

「夜空で月が3ミリ動くたび、自分の中にあるつまらないものが3ミリずつ捨てられてゆく」そんなふうであればいいなぁ、と思う。いつか、消えていく。そんな幻のような町で、でも、少なくとも今はまだここにある。そんな儚い時間を愛しむ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 劇団往来 2015大阪新劇... | トップ | タテヨコ企画WEST『待た... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。