イーストウッドの最新作。91歳で監督主演を果たす。ふつうならもう信じられない話なのに、彼なら当たり前か、とも思える。今回は、幾分、甘い映画だ。だけど、それすら余裕だから、と思える。作品の完成度の高さとか、どうでもいい。自分がやりたいことをやりたいようにやっている。巨匠の仕事、とか、最後のメッセージとか、あまり考えていない。(たぶんこれが最後じゃないし。)
悲壮感なんてない。90を越えて、まだ恋をしている。それが嘘くさくはないし、納得する。彼には男の色気がある。老人なのに、老人臭くない。こんなかっこいい男はいない。マッチョなのだ。
映画はメキシコまで友人の息子を捜しに行く(誘拐してくる)話。最初スタローンの『ランボー ラストブラッド』と似てるやん、と思った。でも、途中からまるで違う映画になる。スタローンのほうが悲壮で、自分の人生を賭けて挑んでいる感満載。イーストウッドのマイペースとは違う。この余裕って、どこから来るのか。悠々自適。自由自在。彼はまだまだ新作映画を作りそうなのだ。いや、作っているのだろう。信じられないことをいとも簡単にやる。
13歳の少年と旅をする。お説教はしない。マイペースだ。少年は徐々に彼のペースに巻き込まれていく。無理なく、自分らしく生きればいいのか、と思う。ひねくれていた心がいつのまにか解きほぐされていく。影響を与えるのではない。でも、気づくと完全に影響されている。だから、ラストでも感傷的にならずに離れていける。父親の胸に飛び込める。この後、父親に裏切られても、自分は自分の道を行ける。だれかに依存はしない。そんな生き方をイーストウッドから少年は学んだからだ。
今回、鶏との共演も楽しい。イーストウッドは動物が好きで、オラウータンとも2度も共演していた。『グラン・トリノ』や『運び屋』とも違う。今回、昔のイーストウッドが戻ってきた感じだ。懐かしい感触の映画だ。79年を舞台にしたのも、きっとあの時代の自分をそこに重ねたのだろう。まだ50歳くらいだったころのままの心の彼がこの映画にはいる。