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映画・演劇のレビュー

『あなたを忘れない』

2007-02-01 21:39:13 | 映画
 先日見た『まぶしい一日』は韓国サイドから描いた日本と韓国を描いた映画だったが今度は、日本サイドからのアプローチである。花堂純次監督はとても誠実に描いていて好感が持てる。事件自体の意味を大きくメッセージとして捕らえるのではなく、そこに到るまでの彼の気持ちを丁寧に追っているから事故が映画全体から浮いてしまうこともない。事故がなかったなら、それでも、それなりに映画として成立するように作られてある。日韓の男女の友情と淡い恋物語として、2つの国に横たわるデリケートな問題を絡めて描いた青春映画として作られてあるのだ。

 事故をことさらドラマチックに取り上げるのではない。しかし、彼がなぜそういう行動にでてしまったのかを分からせるよう描くことは映画として、避けれないことだ。だが、それを単なる美談になんかしない。そのへんの微妙なスタンスはなかなか上手く保ってある。だから、甘い作り方だが、この映画は信用できる。

 「自分がやりたことがみつかった」とイ・スヒョン(イ・テソン)はユリ(マーキー)に言う。日本と韓国という2つの国の橋渡しになるようなこと。それを大好きなスポーツを通してできたならいい、という漠然とした決意。音楽を通して人に感動を与えたいという日本人の彼女と付き合うことで、彼は韓国人として自分には何ができるのかを考えていく。彼女と2人で自転車旅行をして、名古屋から大阪へと旅する中で、かって日本と朝鮮の間にあった不幸な歴史を自分の目と耳で知り、何かしなくてはいけないと思う。そんな彼の純粋な気持ちが伝わってくる。声高に自分の夢とかを語るのではなく、手探りでそれを見つけようとする。

 その過程で、新大久保駅の線路に落ちた酔っ払いの姿が目に入り、自分に何かができるのでは、と思い線路に飛び込んでしまったのだ。バカげた行為だと笑う奴は笑え。そういうバカなことの中で、彼は正直な気持ちで誰かを(この場合は誰ともしれない日本人の酔っ払いを)助けたいと願った。その事実の重みを映画はしっかり受け止めている。以前、道で自分が交通事故にあったとき、周りの日本人は誰も助けてはくれなかった。そのショックから一度は釜山に帰った。しかし、それだけで全ての日本人を否定してしまうのは何か違う、と思う。そんな伏線の上にラストの事故シーンは繋がるのだ。

 2時間10分という上映時間はそんな彼の気持ちを丁寧に追うために必要な時間だった。兵役から帰るシーンからスタートしてなぜ日本に行くのか、ということをきちんと見せたから、映画は説得力を待った。ヒロインをミュージシャンの卵に設定して、ラストはライブシーンで盛り上げるというお決まりの展開の是非はともかく、主人公であるスヒョンの気持ちはよく描けてあるから、安易な部分もあまり気にならないで納得できる。

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