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96年の作品なのだが、今回で3度目の再演となる(らしい)。「平田オリザ演劇展 vol.5」の1作として上演された。いつもながらの平田オリザの世界で、安心して見ていられる。70分の中編作品なのだが、いつもの長編と変わりない。寄生虫の研究をする大学の研究室を舞台にして、東京からここにやってきた研究者とその妻。彼らがこの研究室のメンバーと過ごすほんの一時が描かれる。
ある日の朝、研究室を訪れた妻。夫の同僚から寄生虫に関するレクチャーを受ける。たわいもない会話のはずだった。東京から秋田にやってきて、周囲とも馴染めず、研究に夢中の夫は彼女のことを省みるはずもない。だんだん心を病んできた妻が、その日、夫に対して、決別を決意する。静かな午前。彼らが交わすなんでもない会話劇。
寄生しているのはどちらなのか。東京と東北。夫と妻と。宿主と寄生虫。小さな問題から大きな問題までもが、同じようにこの作品の中には収められてある。いろんなふうに読み取れる。いろんなことを考えさせられる。そんな芝居だ。知らない人だらけの場所にやってきて、なんとかして、周囲に溶け込もうとするけど、地方の人たちの習慣や考え方、すべてが彼女には合わない。どうしても、心を開くことができないまま、どんどん落ち込んでいく。東京で生まれ、結婚によってここに来たけど、ここは自分の場所ではない。
圧倒的な孤独を胸に秘めたまま、ここを去る。3・11以降として設定し直して、帰るべき場所を失う苦しみにも視野を広げて、この普遍的な問題を真正面から描こうとした力作。